サウナは接待やおもてなしの場にもなる

では、なぜ職場や学校にもサウナがあるのだろうか。まず一つは、仕事終わりにさっぱりしたり、リラックスできるようにということ。

堀内都喜子『フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか』(ポプラ新書)
堀内都喜子『フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか』(ポプラ新書)

私の職場にもサウナがあるが、希望する職員が何人かいれば、サウナを温めて仕事終わりに入る。だが、もう一つ仲間との交流やおもてなしの場としての役割もある。

例えば大使館の場合、大使専用の広いサウナがあり、接待やおもてなしの場として使われている。定期的にインフルエンサーやお世話になった方たち10人ほどを招いてサウナの夕べを開催するのだ。サウナに入り、外気浴を楽しみ、食事をしたり、お酒を飲んだりして数時間を共に過ごすことで、お互いの距離がグッと縮まり、仲良くもなれるし、フィンランドファンにもなってもらえる。まさに裸のつきあいだ。

このサウナ外交は、日本だけでなく、アメリカのワシントンをはじめ各国の大使館で行われているし、本国でも政治や外交の場面でフィンランドと海外のリーダーが共にサウナに入って、交流することは有名な話である。

私が以前勤めていたフィンランドの企業でも、サウナは常に接待の重要なツールとして使われていた。会社の屋上には立派なサウナがあり、日本をはじめ海外からお客様が来ると会議の後に共に入り、裸のつきあいと食事やお酒を楽しんだ。

大事なお客様を迎えて時間がある時は、会社が持つ豪華なコテージのサウナに連れて行くこともあった。このコテージへは船で30分ほどかかる。バスでも行けるのだが、船の上でも軽く飲みながら音楽と景色を楽しみ、コテージに着いたら、サウナに入る。そのサウナは20名近くが入れるようなかなり巨大なもので、あつくなって外にでれば目の前は広いテラスと湖。とにかく気持ちがいいのだ。

洋服だけでなく、地位も肩書も脱ぎ捨てられるのがサウナ

最近でも、フィンランドでの研修時、ゲットトゥギャザーと呼ぶ初日の懇親会は、今ヘルシンキで人気の公衆サウナ「ロウリュ」で行われた。そこは水着を着て男女共に入るものだが、一緒にサウナで語らい冷水の中に入るアヴァントを楽しむことで、変な緊張や距離もなくなっていった。

考えてみればあまりよく知らない人と裸のつきあいをすることは、少し不思議な感覚ではあるが、そんなのも最初だけのことだ。サウナの中は暗く、蒸気もあるため、それほど相手の裸が見える訳ではない。基本は裸で入るフィンランドでも異性がいたり、自分の裸をさらすのが嫌な場合は、水着をつけてもタオルを巻いてもいい。

サウナには不思議なマジックがある。そこでは誰もが洋服だけでなく、地位も肩書も全てを脱ぎ去り、大統領だろうが一般人だろうが高齢でも子どもでも、皆が一個人として存在する。つまりとても平等な場所で、その空間を一緒に楽しめるのだ。

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