オリンピックのメダリストには、スランプを乗り越えて栄光を獲得した選手が多い。オリンピックのメダリストたちを長年取材してきたスポーツジャーナリストが、知られざるスランプ克服法の共通点を綴った。
スランプという言葉は便利だが逃避になる
2008年北京五輪で2大会連続2冠を達成した平泳ぎの北島康介。彼はアテネ五輪からの4年間を振り返り、どん底と思ったのは06年だったと話した。
アテネ五輪後は、なかなか燃え上がってこない気持ちに、もどかしさを口にしていた北島。アテネまで突っ走ってきた彼は精根使い果たしていた。その影響あって免疫力も低下し、風邪をひくなど体力強化以前の疲弊も見えた。
それが如実に出たのは06年だった。日本選手権では200メートルで表彰台に上がれず、100メートルでも翌年3月の世界選手権の派遣標準記録を突破できなかった。さらに世界選手権代表選考も兼ねた8月のパンパシフィック選手権(パンパシ)へ向けた高地合宿に出発する直前の6月末には扁桃腺炎を患って入院。病院のベッドの上で、パンパシは欠場するしかないとも考えた。そこに出なければ、北京五輪前の最後の真剣勝負の場となる、07年3月の世界選手権には出場できない。焦りは大きかった。