私は負けた試合の精査と修正より、勝った試合の分析をする思考に気がつきました。オリンピック以外のすべての世界大会では、強豪揃いで条件が同じ中、金メダルを獲得できていたのです。どうして自分は勝てたのか、その勝ちパターンを把握する。そしてそれを積み重ねて、揺るぎないセオリーにしていくイメージが閃きました。その結果、次のシドニー大会の直前には、「最高でも金、最低でも金」という言葉がサラリと出てきたのです。それまでも金メダルを目標として掲げていましたが、「最低でも金メダル」というデッドラインを定められたのは、稽古に裏付けされた自信が揺るぎない信頼を生んだからだと思っています。

1996年、アトランタ五輪の柔道女子48kg級決勝で判定負けを喫した。
時事通信フォト=写真
1996年、アトランタ五輪の柔道女子48kg級決勝で判定負けを喫した。

私が自分の強みだと思うのは、技を左右同じようにかけられることと、相手に対して戦略を100から200通りぐらい立てることです。試合中にポイントをリードされると、そのことに意識を取られてしまって、心の動揺につながってしまいます。だけど、あらゆるリスクに対応できると考えていると、たとえポイントを奪われても、「次はこれでいこう。それがダメならば次はこれ」という選択肢が頭の中に用意されているので、試合を組み立てることができて、あわてません。事前の綿密なシミュレーションは、「すぐに切り替えられる強さ」を与えてくれます。

ただし、どんなに戦略を立てても、試合では当然緊張します。自分の能力を引き出してくれるので、ある種の緊張感はあったほうがいいのですが、過剰に緊張する必要はありません。自分自身をコントロールできる強さを身に付ける方法も必要です。そこで私はオリンピックや世界選手権の代表選手に決まると2カ月ぐらい前から、毎日「今日が試合当日」と思って、朝から一日を過ごすようにしていました。

調子が悪い日も、やる気が出ない日もあります。でも、「今日が試合当日だ」と思ってシミュレーションすると、自分を律して練習に臨める。正しい目標の設定も必要です。すると本番当日も、「やるだけだ」といういつもどおりの領域に入っていけます。

負けたらすぐ次に勝つイメージを

子どものころから負けず嫌いでしたね。私は小学校6年のころは体重は26キロと小柄でしたが、無差別級の試合に出ていたので、100キロくらいの体の大きな男の子に負けたこともあります。それが本当に悔しかった。

でも、道場の先生や保護者がとても熱心でした。普通は負けたら解散なのに、うちの道場は必ず全員道場に戻り、その日に練習をする。つまり、負けて終わりではなく、新しい展開をつくってから帰る。そして、次に対戦するときのために、勝つイメージをすぐに立てておくのです。「負けて学ぶことは少ない。勝ってさらに高い目標を掲げる」という私の思考は、このとき出来上がっていた気がします。