電子書籍元年といわれた2010年。紙から電子へと出版界の流れが加速する一方で、紙でしかできない自由さに溢れた出版物“zine(ジン)”を楽しむ人たちが増えている。

zineとは? 個人もしくは少人数で自主製作する少部数の冊子。コピーをホチキスでとめた簡素なモノから本格的な印刷まで、イラスト、写真、マンガなどの作品集、旅や町歩きのレポート、日記など、その体裁も内容も多様だ。

イベントで野外に広げられた数々のzine。既存の書籍流通に縛られない新鮮な個性に溢れる。

イベントで野外に広げられた数々のzine。既存の書籍流通に縛られない新鮮な個性に溢れる。

zineの語源は一説には、アメリカのSFファンによる同人誌の総称“ファンジン”といわれる。1990年代にはすでに日本でzineという言葉は使われていたが、ここ2、3年で特に活発化。10年夏に開催の「ZINE’S MATE:T OKYO ART BOOK FAIR」は、3日間で6000名の来場者を集めた。

10年10月、東京・代々木公園と大阪・靱公園で開催された「zine picnic」のような、自作のzineを持ち寄るイベントも各地で増えている。このようなイベントでは作り手から直接、購入もできる。また、作り手同士がzineを交換し合う風景がよく見られる。zineを媒介にしたふれ合い、コミュニケーションの広がりも魅力のひとつだ。

zineを扱うカフェ、雑貨店、書店なども増えており、専門店も登場した。

たとえば、09年からウェブでzine専門店「ブックスダンタリオン」を運営する堺達朗さんは、10年末、大阪市中崎町に5坪の実店舗を開いた。

「zineは誰でも気軽に発信できるもの。手触りがいい、かわいいと雑貨感覚で購入する方も多い」と話す。

情報を広範に効率よく届けることでは、ネットや電子出版にかなわないが、作り手、売り手、読み手が親密なコミュニティを形成するzineは、紙の本ならではの楽しみ方を教えてくれる。この超アナログなつながりこそ、もうひとつの本の明日なのかもしれない。