「うま味調味料」で日本人好みの味わいに仕上がっている

また、ハーブだけでなくスパイスも合わせられていました。最も印象的だったのはクミン。加えて辛みの穏やかなタイプの唐辛子かパプリカと思われるチリ系のスパイス。コリアンダーやブラックペッパー、ガーリックパウダーなども配合されているようでした。

味付けは塩だけではなく、しっかりと「うま味調味料」が入っていました。これによって日本人好みのキャッチーな味わいになっていたと思います。

全体としては「東西のミクスチャー」といった感じです。結果的に東西の中間である中央アジア、トルコ料理などに近い味になっていたと感じました。

なぜサイゼリヤがこのようなミックスにたどり着いたのか。この中央アジア的な味付けは地中海に沿うムスリム地域にも広がっているので、もしかするとその影響でイタリアにもこれに近いスタイルのアロスティチーニが存在する可能性も無いとは言い切れません。

中国東北料理の「羊肉串」に似ている

それはともかく、サイゼリヤのアロスティチーニは少々乱暴にまとめると「いかにもヨーロッパ的なイタリアのハーブ文化に東洋的なスパイス文化のアクセントを加えたもの」という独自性があると思います。

ところが(ここが極めて面白いところなのですが)、このアロスティチーニ用スパイスの味についてSNSなどで見られる意見は、ほとんどが「東洋的なスパイス文化」との類似性についてだけで、「イタリアのハーブ文化」はすっ飛ばされているのです。

「東洋的なスパイス文化」をより具体的にいうと、中国東北料理の「羊肉串」との類似性です。中国の羊肉串は一般にクミンとチリの風味が中心です。そこにガーリックやうま味調味料が入ります。まさにサイゼリヤのミックススパイスのアクセント部分そのままです。裏を返せば、羊肉串との類似性を感じるのは当然でしょう。

中国東北料理の羊肉串は、ここ数年、都心部で定番となりつつある料理です。当初は急増する中国東北系移民に向けて東北人経営の中国料理店(象徴的な店に神田の「味坊」などがあります)で供されていたものですが、いつしか「安くてうまい羊料理」として日本人の好事家に「発見」され、瞬く間に広まりました。先に述べた「熱狂的な羊肉ファン」とこの「羊肉串を発見した層」はほとんど同じ人たちでしょう。