「やるのが当たり前のこと」が多いと現場は忙しい

サイゼリヤの料理では香りをとても大切にしているそうです。ですから油の酸化臭は回避したい。そのためには終業時にフライヤーから油を抜いてして、フライヤーやダクトを毎日掃除して、と従業員に負担をかけなければいけません。

多くの外食産業ではそういった努力をしながら揚げ物を出しているのですが、サイゼリヤによれば「それが面倒だからやらない」とのこと。そして実はコスト削減を考える際には「やらないこと」を見つけることが重要なのです。

そもそも「それをやるのが当たり前」だと思うことがたくさんあるからレストランの現場は忙しいわけです。逆に「やらなくてもいい」ことを見つけると業務コストを削減することができます。

ほかにも同じ発想で、サイゼリヤでは朝の開店準備を30分でできるように業務を改善しました。その際に目をつけたのは、掃除機をかけた後にモップで掃除するという普通にレストランで行っている清掃手順を見直すことでした。

日本人はキレイ好きなので、閉店後の店内に実はそれほど目立ったごみは落ちていない。ですから先にモップで砂やほこりを拭きとりながら、ごみを見つけたら一カ所に集めておく。それで最後にそのごみだけを掃除機で吸いとれば清掃作業は短くて済む。店全体に掃除機をかける作業が「やらなくてもいい」と気づいたことで準備時間の短縮につながったというわけです。

ちなみにサイゼリヤのモップの幅は、お店の通路の幅と同じになるように設計されているそうです。これもモップを一回でかけられるようにするための理系らしい時間短縮によるコスト削減策といえます。

誰が作っても同じ味「ミラノ風ドリア」の秘密

問題3:サイゼリヤのキッチンには包丁がありません。なぜでしょうか?

レストランのチェーン経営で重要なことは、店舗ごとに味のばらつきがないことです。サイゼリヤの正垣会長によれば、店舗ごとに味がばらつく理由は、厨房の作業の中に個人の能力によって差がでる作業が入り込んでいる場合だといいます。一方でそれを乗り越えようとすべての店舗の厨房に能力の高いベテランを配置するようにすると、それがコスト増につながります。

そこでサイゼリヤでは味に差がつく工程をすべて工場に集めることを徹底して考えたといいます。スパゲティの乾麺をお店でゆでることもしない。野菜も肉もあらかじめ工場に集めて切って加工し、お店では盛りつけて加熱するだけでよいように下準備を済ませている。だから厨房には包丁がないというわけです。

ちなみに調理時間で味に差がでないように、たとえば人気メニューの「ミラノ風ドリア」はコンベヤーのついたオーブンに入れて焼きます。入れてから出てくるまでの時間は誰が入れても同じ。つまり同じ品質の料理ができるように工程や調理器具が理系のアタマで設計しつくされているのです。

サイゼリヤのアルバイトのキッチン担当とフロア担当が分かれていないという点もレストラン業界の中では個性的です。言い換えるとフロア担当がキッチンの作業ができる多能工になっている。キッチンの作業が究極まで定型化・シンプル化されているからこそそれができるわけです。

そのおかげで店長がバイトのシフトを組むのがほかのファミレスよりも簡単になっている点が重要です。その分、余計な数のバイトをそろえる必要もなく、結果的にコスト削減につながっています。