マラソンはペース配分しない

私がマラソンを始めたのは、「好き」というより「自分にもできる」と思えたからです。若いころはなかなか結果を出せず、やっとバルセロナオリンピックへの出場が決まり、銀メダルを獲った。確かに世界は変わりましたが、同時にいろんなこともありました。

自分で自分を褒めたい──日本中に感動を与えたアトランタオリンピックでの銅メダルは、人生の転機だと振り返る。(時事通信フォト=写真)

人生の転機という意味ではアトランタのほうが大きかったです。私のなかでは、2大会連続ではなく、ひとつひとつの大会が別物。バルセロナを経験したからこそ、アトランタの結果が出たと思っています。

どちらにも共通していることは、沿道の声援がもの凄く大きな力になったことです。42.195キロの40キロを超え、疲れているときに声を掛けられると、それだけで選手は生き返るんです。明確に人から応援されるので、存在意義を感じることもできます。

42.195キロはペース配分して走っているわけではありません。マラソンは、その場その場の駆け引きです。どんな展開になるかなんて、その瞬間までわかりません。だからこそ順応性が求められます。そう言うと崇高なスキルのように感じられるかもしれませんが、皆さんも日ごろの仕事でなさっていると思いますよ。あらかじめスケジュールを立てていても、思いがけない業務が入ってくることもあるでしょう。

マラソンも、さらには人生も同じで、先のことは決めていても仕方ないんです。「こうである」と決めてしまうと、それと噛み合わなかったときに崩壊します。自分次第でどうにでも変えていけますし、順応できます。

わからない明日、見えない未来をいかにプラスに、エネルギーにしていけるか。「こうなりたい」「こうなるかも」という期待が、エネルギーになるんです。だからこそ、いつも自分を元気にしておく、つまり健康が大事なんです。

健康な状態に自分を整えるためにも、何が起きても受け入れて対応する「順応性」はとても役に立ちます。まず自分自身の心と体に目を向けること。自分がコミットした物事の責任は自分にもあります。

疲れていると、上手くいかないのは周りのせいだと思ってしまいがちですが、自分がコミットした以上、周りに改善を求めるより自分が変わり、自分を整えたほうが早い。これらの発想を持つためにも、健康な心と体に整えておく必要があります。

たとえば急いでいるときに乗ったタクシーの速度が落ちると「なんで急がないの!」と思いますが、そもそもの原因は、自分が時間ギリギリに乗車したこと。心が健やかな状態に整っていれば、余裕ができ、腹が立つことも減っていきます。まぁ、でも、そう簡単にいかないのが現代とも言えますが。