オマーンというのは人口467万人くらいの国ですけど、一時期は2人も来ていました。私がノーベル賞をもらったときの報道で、その学生が一緒に写真に写っていたんです。それを見たオマーン政府はすごく喜んで、ストックホルムまでの旅費を出して、その学生を授賞式に参加させました(笑)。

【柳井】インドやベトナムや中国の若い人は、欧米の大学で本気で勉強していますね。その人たちが、これから世界のリーダーになっていくんじゃないですか。

【本庶】なぜ私の研究室に日本人が少ないかというと、彼らは大学院に入るとき、先生に一生面倒を見てもらおうと思っているわけ。就職の世話とかね。年を取った先生はいつ死ぬかわからないから、若い先生がいいんです(笑)。外国人は違います。あそこの研究室へ行ったらいい研究ができるし、そこで修業を積んだらさらにチャンスが広がると考える。

【柳井】我々も、以前は先進国の人材だけだったけど、今は世界中で人が採れる時代になりました。新興国の社員は、やはりハングリーで勉強しようという気持ちが強い。日本人の社員は、彼らと競争しないといけません。

最近の日本の若い研究者は留学しません

【本庶】さらにいえば、最近の日本の若い研究者は留学しません。これも非常に大きな問題。若いうちにいろいろな文化や考え方の違い、生活の違いを体験すれば、研究者として成長すると同時に、人間としても成長するんです。

研究者も、人間力がないといけません。情報交換や共同研究をするときは、人と人です。「あいつとだったら組んでもいいな」と思われるためには、人間としての総合力がなければ。学校の試験の成績ではない人間力を蓄えるためにも、若いときの異文化体験は重要ですよ。

【柳井】そう思います。特に若い人は、価値観が異なる人と積極的に接しなければ、自分が何者なのか見えてこないと思いますね。

さまざまな分野で「きわ」がなくなったのが、今の時代です。部署や会社や国境を超えて、自分とは違う人たちと結合しない限り、目的地に行けません。

【本庶】特に研究では、異分野の人間といかに交流するかが大切です。自分にはない情報やテクノロジーを持っている人やグループと協力することで、相互作用が生まれるからです。企業でも一緒でしょうけど、全然違う方向からの技術やアイデアと刺激し合うことで、新しい発想が生まれるでしょう。

【柳井】専門的なネットワークやチームワークがないと、今後は生き残れませんよね。

自分の部署とか会社とかの範囲で考える人が多くて、垣根を越えて他分野のこの技術は使えるんじゃないか、とかを考えない。自分の内輪だけでは何も解決しない世の中になっていることに気づかなくてはいけません。