みんなが世界一だと思う会社が世界一

【柳井】その通りです。みんなが世界一だと思う会社が世界一なんですよ。しかも、世の中の見方が変わってきて、将来にわたり社会にとって有益な会社でなければ認めてもらえなくなってきました。企業としての価値観や、行動のさまが問われるんです。

それから、インターネットとコンピュータとAI(人工知能)のおかげで、誰でも瞬時にいろいろな情報を取り出せるようになりました。でも、まるでAIがすべてを解決するかのように言われているけど、そんなことはないでしょう。AIやコンピュータは計算機ですから、わかっていることはできるけど、わからないことはできない。

【本庶】柳井さんがそういう考えで、大変心強いです。

たしかに、テクノロジーの進歩によって、生命の複雑な現象を担う分子や細胞を解析できるようになりました。これによって生命科学が飛躍的な発展を遂げたのも事実です。

ですが、私も、AIでできることはまだまだ限られていると思います。

時事通信/AFLO=写真
2018年、スウェーデンで開かれたノーベル生理学・医学賞の授賞式にて。

【柳井】人の生命の設計図であるゲノムを構成するDNA配列が全部解析されても、人間にはまだじゅうぶんに解明できない部分がたくさんありますよね。

【本庶】そうなんです。生命現象に関しては、まだわからないことが多いんです。人間の体をつくっている細胞は1013個あります。その一個一個が、今の最新の解析では全部違うんです。そしてその一個の細胞の中に、たんぱく質や代謝物などたくさんの種類の物質が入っている。だから、人間はとても複雑で、AIでそれを再現するのは不可能でしょう。

たとえば「病気を治す」と言いますが、大部分はなんとなく治っているんです。お医者さんは、ひどくならないように協力しているだけで、結局は人間の復元力で治る。だから、どうして治ったか説明しろと言われても、説明できない(笑)。

【柳井】だから僕は、テクノロジーは人間が飛躍するためのプラットフォームであって、脅威ではないと思います。

インターネットに情報が全部集まっていて、スマートフォンに質問したら答えが返ってくる。すごく便利ですよ。スマートフォンでもタブレットでも、大学の授業をインターネットで無料で見られる。そういうものを、もっと利用しないといけないんじゃないかなと思います。

それと、コンピュータは計算しても、それを実行するのは人間ですよね。実行しない限り、何にもならない。それで実行したら、ほとんどの場合、コンピュータの予想とは違う答えが出るんですよ。計画と一緒で、計画してもその通りになることはない。先生は、実験されていて、どうですか。

【本庶】そうですね。AIに単純作業とか、誰でもできることをさせれば、効率的に早くできるようになる。そこはもっとAIに任せたほうがいいと思います。だけど、これは研究でもビジネスでも同じだと思うけど、非常に深い洞察力とか、未知の領域への挑戦は、やはり人間がやらなくてはいけない。