地方にこそ「日本の医療の最先端」がある

「人生を人のために使いなさい」と諭した父は、いま、超問題児だった息子のたっての願いを受け入れ、志摩市民病院で共に働きながら、地方が直面する超高齢人口社会の現実に驚いていた。

「私は2018年10月にここに来るまで、都会の病院しか知りませんでした。初めて地方の医療現場を見たわけですが、想像を超えていました。以前勤めていた病院で入院していた患者さんは60代、70代。そこでは、いかにガンを治すかが正義だった。でも、ここに入院している患者さんは80代、90代で求められている医療の質が異なります。新しい価値観やそこで選択すべき医療を模索していかなくてはなりません」(浩安さん)

地方で求められているのは、患者一人ひとりに最期まで寄り添ってくれる「赤ひげ先生」のような医師だ。江角さんは語る。

「日本の医療は高度化しましたが、それで人々が幸せになったかといえば、そうではありません。それは最後まで自分のことを思って、寄り添ってくれる人が医療現場や社会に不足しているからです。まず医者は、患者が『助けてください』と求めてきた時に、専門外だといって断らないことです」

「医者が専門性を持つことが悪いとは言いません。でも、いまの日本医療は高度に専門分化が進みすぎて、そのために自分の専門分野しか見られない医者が増えすぎてしまった。広く診られる医者がいないから、厚労省は『総合診療』を専門医制度に組み込みましたが、あまりうまくいっていません。本来ならば医者全員がプライマリ・ケア(緊急の対応と必要に応じて他の医療機関につなぐ判断を行う)は最低限できないといけない。それは難しいことではなく、『絶対に断らない』『目の前の患者を必ず助ける』というモチベーションさえあれば、身についていく医療知識であり、スキルです。だから、いま日本に欠けているのは、このモチベーションの教育だと思っています」

予算や人的資源がないなかで、医療崩壊を食い止め、孤独を抱える過疎地域の人たちをいかに幸せにしていくのか。地方には、私たちがこれから向き合う課題が凝縮されている。地方での医療サービスは、手厚くやればやろうとするほど赤字になる厳しい現実もあるだろう。だが、そこで奮闘する江角さんと若者たちの日々の取り組みの中にこそ、それを克服するヒントが隠されているのではないだろうか。

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