小泉純一郎氏は、首相在任中から転じて現在は「原発反対」を唱えている。なぜ引退後に主張を変えたのか。政治社会学者の堀内進之介氏は「ある決まった立場に置かれていると、関係者の気持ちを推し量って想像力が偏る。小泉氏は総理大臣『なのに』分からなかったのではなく、総理『だから』分からなかったのだ」と指摘する――。

※本稿は、堀内進之介『善意という暴力』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。

写真=時事通信フォト
小沢一郎政治塾で講演する小泉純一郎元首相=2018年7月15日、東京都新宿区の日本青年館ホテル

社会は、実は分断されていない

「競争が起きるのは、価値観が対立しているからではない。むしろ共通の価値観を持っているときに競争が起きる」、みんなが「弱者」を助けることが大切だと思っているから、誰もが「弱者」や「当事者」に寄り添おうとする。弱者や当事者に近いほど偉いというピラミッド構造だ。

それゆえに競争が起きる。私たちは、よく、社会の分断の溝が深まり、対立が激化しているという。だが、実際にはシステムは最適な平等でフラットな環境を提供している。政治的には民主主義、経済的には資本主義という近代社会だ。だとすれば、溝が浅くなった分、これまで目に留まらず、気にならなかった些細な違いが気になるようになっただけではないだろうか。

私たちは分断されたのではなく、むしろ、接続されたために違いに気付くようになった。その意味では、対立は深まっているというより、浅く広まっているといった方が正しい。敵のいない、開かれた社会を作るつもりで、細分化された社会とその敵を作っていたわけだ。