なぜ「戦争を望まない」のに司令官殺害を実行したのか
イランが誤射を認める前に読売新聞がこんな社説(1月10日付)を書いている。
「米国もイランも、戦争を望まない点では一致している。抑制的な対応が衝突回避につながることを、両国の指導者は認識したはずだ。これを機に緊張緩和を進めねばならない」
読売社説の書き出しだが、その通りである。アメリカもイランも「戦争を望まない点では一致」しているのだ。それがなぜ、お互いを攻撃し合うことになったのか。
読売社説は続けて書く。
「イランがイラクの米軍駐留基地を攻撃した。トランプ米大統領は対抗措置として、イランに追加制裁を科すと表明した。『軍事力は使いたくない』と述べ、報復攻撃には否定的な考えを示した」
「米軍の高い能力を誇示していたトランプ氏が、あえて経済制裁を選んだのは、攻撃の応酬が大規模紛争に発展する事態を避けたいからだろう。賢明な判断である」
沙鴎一歩も懸命な判断だったと思う。だが、この時点で「軍事力を使わない」との選択ができるのなら、なぜスレイマニ司令官の殺害を実行したのだろうか。浅はかだったとしか言いようがない。
すべてはトランプ氏のちゃぶ台返しから始まった
読売社説はこうも書く。
「イランが直接、米軍に軍事攻撃を仕掛けるのは、1980年代のイラン・イラク戦争の終結後、初めてだ。国民に英雄視されていた司令官の殺害を受け、イラン指導部は国内向けに強硬姿勢をアピールする必要に迫られていた」
結局、トランプ氏はイランを追い込んでしまったのである。読売社説はさらに指摘する。
「そもそも、米イラン対立が激化した発端は、米国がイラン核合意から一方的に離脱し、対イラン制裁を復活させたことにある」
最後に読売社説はこう主張している。
「2015年の核合意は、核兵器製造につながるイランのウラン濃縮を抑制し、国際原子力機関(IAEA)の監視下に置く点で一定の成果を上げてきた。合意に加わった英仏独中露の5か国は合意維持の必要性を強調する」
「トランプ氏は新たな核合意を結ぶべきだと主張するが、圧力強化でイランに譲歩を迫る戦術は行き詰まっている。日本や欧州諸国が仲介役として果たす役割は大きいはずだ。関係国との協議を深め、打開策を探ってもらいたい」
読売社説はトランプ氏に肩入れする安倍政権に対しては親和的だが、この主張はアメリカに対して厳しく、まっとうである。今回のアメリカとイランの紛争はトランプ氏のちゃぶ台返しから始まった。その元凶は「アメリカ第一主義」にある。