最終的には歯が抜けてしまう病気

「それは主に歯周病が関係しています。歯周病というのは、何百種類もの菌が歯と歯茎の間の歯周ポケットに入り込み、歯を支えている骨を溶かしてしまい、最終的には歯が抜けてしまう病気。放置しておくと歯周病の病巣に開いた血管を経由して、全身に歯周病菌の毒素が運ばれていく。それが体のあちこちで慢性炎症を起こすのです」

この“炎症”がくせものだ。炎症は急性であれば症状は重いが、比較的すみやかに収束する。だが歯周病菌が引き起こすのは、本人も気づかぬうちにじわじわと続く慢性炎症。この慢性炎症がいつのまにか高血圧や動脈硬化、脳梗塞や心筋梗塞、糖尿病、がんなどの重篤な病を引き起こすと森永氏はいう。

「中等度の歯周病は、進行の目安になる歯周ポケットが4ミリから5ミリくらいの深さになります。そういう歯が20本あった場合、その面積を合計すると、手のひら1枚分ぐらいになる。つまり手のひら1枚分の潰瘍、つまり組織が傷ついている炎症の発生源が口のなかにあるということを意味します。もしも胃にそんな大きさの潰瘍があったら大変ですよね」

歯周病の病巣にいる菌は、直接血管内に侵入しやすい。消化管を伝わって胃を通過し、腸まで達する場合もある。最近「腸は第二の脳」といわれるほど、脳と密接な関係にあることがわかってきている。腸内環境が悪化すると、脳内の神経伝達物質の生成が妨げられ、うつ病や認知症を招くという。

「口腔内の歯垢は細菌の塊です。まずは歯磨きなどで口の中の歯垢をできるだけ落とし、それでも残った歯垢が固まって『歯石』になってしまったら歯科で除去してもらうのが基本中の基本となります」

日本人成人の約8割が罹っているという歯周病だが、歯周病は初期の段階ではほとんど症状がない。歯が揺れる、噛むと痛いなどの自覚症状が出たときには、すでにかなり重症になっていることが多い。だからいまは特に不調を感じていない人でも、歯科の門を叩くことで、将来まで続く健康が手に入るというわけだ。

「歯が痛くないのに歯医者に行くのは抵抗がある」という人は、最新の治療方法を知らないため、歯科医院に苦手意識を持っていることが多い。だが現在は歯をガリガリ削ることは昔よりは少なくなっている。

「虫歯の疑いで歯に着色している箇所があっても、食生活が適切にコントロールできていて、定期的に来院できる方であれば、そんなに慌てて削りません。なぜなら歯を削って人工物に置き換えるということは、特に年齢が若い方の場合、必ずまた再治療が発生するから。つまり削って人工物にした場合、大抵はその詰め物がダメになって、より大きな詰め物になります。詰め物がダメになると、次はかぶせ物になる。