“プライベート”抜きでは愛情を持って叱れない
「肉親のつもりで叱る」には深い愛情が必要です。マザー・テレサの言葉に「愛の反対語は無関心である」というものがある。つまり「愛」とは相手に関心を持つこと、深く関わることです。
従業員に何か問題があったとしましょう。たいていは裏に家庭や家族の問題が隠れています。家庭がうまくいっているときは仕事もうまくいく。家庭に問題があるのに仕事がうまくいくことはありません。仕事と家庭とは両輪です。ですから仕事上の問題を解決するために、上司は部下の家庭についても、ちょっとは知っておかなければいけないと思います。
部下の家に何か悩み事があるときは、解決の手助けができればいいですけれど、できなくても慰めや励ましの言葉をかけることはできるのです。たとえば子どもの不登校で悩んでいる従業員がいるとしましょう。
「父子家庭やのに、たいへんやなあ。仕事どころやないやろ。子ども最優先にしてかまへんからな。授業参観にも行ってやりなさい」
ですから私は、従業員の家庭に問題がないのかどうかを聞くようにしています。ほんとうは個人情報を聞き出すのはよくないのかもしれませんが、真剣に関わろうと思ったらプライベート抜きでは進められません。
いまはそんなことはありませんが、かつては社員寮のマスターキーを常に携帯していて、昼間に若い社員の部屋を突然訪問することもありました。もちろん嫌がる社員もいましたよ。そういうときは、こう諭すのです。
「俺は親御さんから大事な息子を預かっている。おまえを一人前に育てるには、勤務時間以外の1日16時間、何をして過ごしているのかを把握するのは当然のことだ」
さすがに現在は、そういう乱暴なことをするわけにはいきません。代わりに私の携帯番号を公開しています。上司にも誰にもいえないことを相談したいときには、社長ではなく中井個人にいってくれと伝えてあります。
店長など幹部社員にも、同じように「個人として」部下からの相談を受けさせていますから、彼らを飛び越して私の携帯を鳴らす者はそんなに多くはありません。それでも年に1、2回は携帯で相談を受けます。
そういうときは、社長ではなく中井政嗣個人として話をしますから、「そんな会社は辞めてしまえ!」ということもありますよ。
成果主義が導入され、日本企業でも終身雇用は崩壊したといわれます。しかし、うちはいまでも終身雇用です。ここは日本なんです。理に偏らず、情のこもった経営を続けていきたいと思っています。