もう1つは現業への「組織最適化」問題です。既存事業と違い、デジタル化に対応した新事業は市場予測が困難です。そのため、「当たる予測」を期待するプロセスでは投資決定が遅れることになります。また、既存事業もさらに強化するために人や資源を必要とします。それを許容していると新事業に人と資源はなかなか回ってきません。さらに、新事業は予測ができないだけに、組織の既存プロセスと評価基準が合いません。このように、既存組織は既存事業のために最適化されているため、新しいことをやりにくいのです。
既存事業と新事業の矛盾に耐える
いずれの問題も、既存企業の宿命だと言えます。こうした宿命下で既存企業は、既存事業(アナログ)の強化と新事業(デジタル)の探索の両方を進めなければなりません。それを「両利きの経営」と呼んでいます。
デジタル対応における両利きの経営を行うには、①アナログ事業とデジタル事業の兼務はさせない、②既存事業の目標を持つ社員はデジタル事業に口出ししない、③デジタル事業のメンバーの半分以上は外から入れる、④デジタル事業は社長直轄か別会社とする、といった組織づくりが求められます。しかし、宿命に逆らうことですから、容易なことではありません。経営者が既存事業と新事業の矛盾に耐えることが必要です。
リクルート、コマツ、トヨタなど、両利きの経営を推進する企業は、経営者が強いリーダーシップを持っています。デジタル・ディスラプションへの対応能力を高めるには、トップ主導の「制約の突破」と「両利きの経営」が不可欠です。
(構成=増田忠英)