トップダウン型だった組織で、そんな取り組みができるのか

経営破綻するまで、スカイマークを「第3極の航空会社」として成長させてきた西久保慎一社長はトップダウン型の経営者だった。そこで徹底されたのは、サービスを最低限に絞り込み、コストを下げることで低価格を実現することだった。そんな西久保体制では、社長の指示は絶対だった。

スカイマークの企業再生が始まって4年がたつ。破綻時には1900人だった社員数は、現在は2500人に増えた。2018年からは新卒採用も再開した。だが、運行の中枢を担うのは破綻前からの社員たちだ。

今回の新ブランドとクレドは、「社員たちが自ら選んだ」という。トップダウン型の染みついた組織で、そんなボトムアップ型の取り組みが本当にできるのだろうか。スカイマークは一体何を狙っているのか。こうして記者会見の2週間後、市江氏にインタビューを行った結果が冒頭の言葉だった。

行動指針を自分たち決めるとは、高校の生徒会のよう

市江氏は、新しいコピーやポスターが「地味すぎるかもしれない」と述べ、さらに自身が内心気に入っていた候補とも違っていたのだと打ち明けた。そこまでして、なぜ経営の根本に関わるブランド戦略やクレドを社員に決めさせたのか。

スカイマークの新しいコピーを打ち出したポスター(画像提供=スカイマーク)

クレド(行動指針)の最大のメリットは社員の意識改革だといわれる。だが、自分たちの行動指針を社員が決めるというのは、高校の生徒会のように思えなくもない。

担当者の説明によると、ブランディングやクレドの策定のために、今年1月、社内にプロジェクトチームが発足。社長をトップにおよそ10人ほどの幹部が委員となった。そのうえで全社から集められた社員80人の「ブランドキャプテン」が各部署の意見を持ち寄り、さらに全社員アンケートも実施した。最終的には丸2日間、経営側の委員10人と社員側のブランドキャプテン80人のあわせて約90人が大会議室に集まって議論を重ねた。チーム発足から意見集約までにかかった期間はおよそ10カ月。会社としてはかなりのコストをかけたと言っていいだろう。

執行役員の田上馨さん(46)は10人の委員の1人だ。大学卒業後、ゲームメーカーの営業を経て2001年、創業5年のスカイマークに転職し、西久保体制も経験している。社員がクレドを策定する意義を田上さんはこう説明した。

「自分たちが誇れるものは何だろうという問題意識は社員の間にありました。いい仕事をしている自負はあるのに、スカイマークの強みを明言できないもどかしさ。そして自分たちの会社をどうしたいかを考える機会もこれまでになかったと思います。今回、ブランディングやクレドをボトムアップで策定するのは、プロセスでいろんな意見を出し合うことに意味がある。それは幹部ミーティングで一致した意見でした」