“敗者復活ルート“がない日本のキャリア構造

ダブルケア世代の出現に企業はどのように備えるべきなのか。不可欠なのは評価基準を時代に合わせて、より一層柔軟に変化させることである。かなり崩れてきているとはいえども、企業における評価基準は長期雇用が前提で作られてきた。上級職に昇進していくためには毎年複数回ある人事評価でコンスタントに点数を重ねることが重要とされる。一度上位グループから転げ落ちると、元の上位グループには戻りにくい、敗者復活が少ないのが長期雇用を前提とした日本の伝統的なキャリア構造であった。そしてその考え方は現代でも根強い。

敗者復活をルートとして多く持たないキャリア構造では、出産や育児、介護などで働き方をスローダウンさせる必要がある人たちを有機的に拾うことが難しい。

企業は5年以上の「長期評価」を導入するべきだ

企業は今後さまざまなキャリアパスを作ることをより一層求められる。その際に基盤となる考え方として、さまざまな評価軸の中に、6~10年を一つの評価期間とする長期時間軸を入れることが必要となろう。

個人の働き方とパフォーマンス
個人の働き方とパフォーマンス(図表=高田朝子『女性マネージャーの働き方改革2.0』)

ある程度長いスパンでの評価があるということは、時が満ちたら反転攻勢に出るルートがあることを示す。本人にしてみれば、今数年はダブルケアで時短勤務を取っているけれども、落ち着いたらこのスローダウン分を取り返すと考えることができる。図表の青い部分はダブルケアでアンダーパフォーマンスだが、いろいろ落ち着いた後、フルタイムに復帰して赤のオーバーパフォーマンスとなる。長期の時間軸をとると、赤い部分の面積が結果的に青い部分の面積を上回る。数年の時間軸では期待以上のパフォーマンスを出していることになる。

高田朝子『女性マネージャーの働き方改革2.0』(生産性出版)

もちろん、短期評価で最大の給与を求める嗜好性の人にとっては長期評価軸は好ましくないだろう。そもそも、産休、育休、時短などさまざまなライフステージの人と、短期評価でガッポリ稼ごうという人々を、公平性の名の下に同じ評価軸で評価する現行の制度自体に無理があるのだ。

長期にわたって毎回連続して高評価をとり続けなくてはいけない状態は、人を追い詰める。長期評価であれば、自分のキャリアを諦めることなく、時期が来たらフルスロットルに入ることができるという希望を持つ。自分で働き方をコントロールできることの方が、本人のモチベーションの維持という点では有効である。人口減少と結婚と出産の高齢化で、ダブルケア人口は今後ますます増加するだろう。そこでの取りこぼしを少なくするというのは、企業にとっても合理的行動といえるのではないか。

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