転職エージェントが「ささやき女将」に?
最近、似たような話を違う人から立て続けに聞いた。中途採用をした新入社員が「ハズレ」だったという話である。
コロナ災禍で直接会うことができずリモート状態での選考となった。何回かのウェブ面接で素晴らしい人材だと認め、最後にリアル面接をして採用に至ったが、入社後は期待した働きが見られず失望しているという内容である。これだけならよくある話で「採用は水ものだからね、残念だったね」で終わる。
興味深いのは、採用者たちがその後小耳に挟んだというウェブ面接に関する噂である。ウェブ面接の時には、受験者の近くにメンターなり知恵袋的な役割の転職エージェントがいて、上手に面接をこなすことができていた、というのだ。面接時にそばにつき、リアルタイムで客観的にアドバイスしてくれる司令塔がいたとすれば、自信のない一部の受験者にとってはありがたいことだろう。この話を聞いて、廃業した老舗料亭の「ささやき女将」を思い出して笑ってしまった。
その真偽は分からない。コロナ災禍の中とリモートワークが急速に普及して、今までの伝統的な働き方との間でせめぎ合い着地点を見いだそうとしている現状では、転職の最前線でも試行錯誤を繰り返している。ささやき女将がいるリモート面接話はあながち法螺話ではないだろうというのが感想である。この種の可能性があるからといって、ウェブ面接やウェブ会議を否定するつもりは毛頭ない。ウェブを使った働き方からは今後逃れられないのが現実である。
急速に進んだ日本のリモート化
現在はリモートワーク過渡期である。感染症対策のために突如政府が旗振りを始め、企業もそれに驚異的な速さで従った。「リモートワークなんてあり得ない、日本ではできっこない」といっていた2月の状況とは雲泥の差がある。ウェブ会議もウェブ飲み会もすっかり日常に溶け込んでいる。
製造やサービスの現場や、セキュリティーが関係する職場などは、リモートワークは難しいだろうが、オフィスワークの多くにおいては可能だという学習を私たちはしてしまった。「会社に行かないと仕事にならない」と信じ込んでいたものが、必ずしもそうではないことを実感しているのが現在である。
リモートでの働き方は企業社会に多くの変化をもたらす。一過性の緊急手段ではなく、日常の働き方の一つとして定着していけば、生活するためには必要だけれども個人のキャリア構築にとって不利な時短勤務という概念は霧散するだろう。会社に行かなくても結果が出せれば誰も損をする人はいない。これは介護や育児で仕方なく離職する人々への有効な援護策にもなる。