ウェブ面接は五感に頼って判断できない

一方で、リモートでビジネスが進んでいく社会はバラ色のことばかりではない。リモートでも仕事が上手くいくような工夫と、リアルとは毛色の違うビジネススキルを新たに磨く必要がある。リアル(対面)とウェブの差は大きい。同じ時間でも、得られる情報量は圧倒的にリアルの方が多いからである。

人間の脳は人とリアルで会うと強烈に活性化する。相手の表情や声のトーンやピッチ、姿形や匂い、その人の持っている雰囲気の全てを、あらゆる感覚を駆使して理解しようとする。特に、目を合わせるという行為は脳の活性化を強く促す。

リアルの面接の際、採用する側は、受付での態度や待合室での様子、部屋に入ってきたときの姿勢や、服装など全てを観察し受験者の能力や人柄を判断する。その人の振る舞い方、考え方や周囲とのやりとりを観察することでその人の人となりを推し量ろうとする。この時、お互いに脳はフル回転している。

ところが、ウェブ上では、脳はリアルの時ほどフル回転しない。ウェブ上では相手と目を合わせることもない。ウェブカメラを通じてとリアルで視線を合わせるのとでは感覚的に違う。その上、画面は作り込みが可能だ。その人の持つ匂いも雰囲気も視線の泳ぎ方も分からない。五感に頼るリアルの面接とは違い、ウェブ面接では受けとる情報量が格段に違う。

「ささやき女将」の力で入社しても…

リモート面接での「見え方」を細工することは案外安易にできる。ウェブカメラでは見えない位置から「ささやき女将」よろしく受験者に助け舟を出すことは、入社率を上げたい転職エージェントと、転職したい受験者との利害が一致した結果の合理的な行動なのかもしれない。

小細工を経て入社しても、職場ではリアルで評価されることになる。もしも、転職後の仕事が1人で自己完結できるもので、アウトプットのみで評価されるという職人型の仕事ならば問題はないだろう。残念ながら現状では、完全リモートワークで一切対面がない職場はまれだ。多くの部分は他人とのやりとりがあり、仕事の評価もチームでなされる。そこで求められることは、結果を出すことと、その為の意思決定を連続して行うことである。

そもそも、面接でのやりとりは、その人が行ってきた意思決定の歴史と質を探るためにある。ささやき女将の振り付けで動くこと自体が、自らの意思決定を放棄していることになる。リアルで働いて結果がでないのは自明と言えば自明である。もしあなたがこのような転職エージェントに出会っても、決して利用しないことだ。