最終面接までいっても病歴で落とされる
僕の患者さんに、外資系企業に勤めていて、高いスキルを持ち、自分でも特許をいくつも取って、まだ30歳前で1000万円プレーヤーだったエンジニアがいました。この人も「治療に専念する」ということで退職し、予後のいいがんだったこともあって、1年間かけてがんを克服しました。「復職したいので診断書を書いてください」と言われ、僕は「がんばれ」と言って彼を送り出しました。
再就職活動を始めると、最近は優秀なエンジニアは引く手あまたですから、履歴書を出せばどこでも歓迎されます。ところが途中で必ず、「一点だけ確認させてください。履歴書に1年間、空白の時期がありますが、これはどうされていたのですか。MBAを取るために留学していたとかですか」などと質問されます。
そこで「がんになってしまって、1年間治療していました」と正直に答えると、相手の顔がスッと曇って、そこで落とされてしまうのです。
4社受けて、最終的には全部そのパターンで落とされたそうです。彼はそれで就職活動が嫌になってしまい、今はコンビニで夜勤のパートをしています。本人からそれを聞かされて、僕は彼を落とした会社に「がんは関係ないでしょう。もう治っているんですよ」と電話したりしましたが、状況を変えることはできませんでした。
もはやこれは「人権の侵害」である
そんなバカなことがあるのか、と思います。闘病中というのならともかく、「もう治っている」と医者が保証しているのに、それでも受け入れてもらえないのです。がんが治癒したがん経験者は、基本的には健常者と何ら変わらないはずです。骨折で社会復帰できないなどということはないのに、なぜがん患者だけが差別されるのか。もはやこれは人権の侵害であると感じます。
がん治療に関わる立場から付け加えさせてもらうと、一度がんになって闘病を経験した人は、その後の人生をものすごく真面目に生きるようになります。それまでお金がほしいとか地位がほしいとか言っていた人でも、「もうすぐ死ぬかもしれない」というギリギリの状況を1年も経験すれば、「命があるってありがたい」「仕事があるってすばらしい」という気持ちに変わります。