イスラム圏ではエジプト、モロッコ、新疆ウイグル自治区などに行ったことがある。それぞれヨーロッパ人の避暑地であったり、シルクロード観光の拠点であったりと、じつは家族旅行向きなのだ。これらの国ではホテルの中は欧米だから、酒は飲み放題である。日没時に町中のスピーカーから聞こえる、礼拝を促す詠唱「アザーン」を聞きながらビールを飲むことほど気持ちのいいものはない。

乾いてひんやりとし始めた空気、砂漠に沈み始めた赤く柔らかな太陽、二重三重にエコーがかかっているように聞こえるアザーン、冷えたハイネッケン、このためだけにわざわざイスラム圏に旅立つ気になるほどだ。

本書はそんなヤワな観光客とは隔絶した、プロの辺境作家によるイスラム圏での酒飲みエッセイ集である。秘密警察の目をかいくぐりイランで酒を飲む。海賊で有名な破綻国家、ソマリアで酒を飲む。紛争が絶えない反米独裁国家のシリアで酒を飲む。ほぼ内戦状態にあるアフガニスタンでも酒を飲むのである。しかも、ホテルの中ではなく、現地の人々と一緒に現地の酒を飲むのだから、旅行好きにとっても、酒好きにとっても、本好きにとっても、面白くないわけがない。