「広告をうまく行うには、自社の顧客の心の仕組みを知る必要があり、その心にどう効果的に影響を及ぼすかを理解しなければならない。つまり、広告に心理学をどう応用するかを知る必要がある」

広告百科事典の『ファウラーズ・パブリシティ・エンサイクロペディア』は、通信販売のカタログを企画する人に向けて、「カタログの中身を10人程度の一般の人たちに見せて、その中身を理解してもらえるかどうか試す」ことを勧めた。

これは現代のマーケットリサーチの原始的な形といえる。当時はこうした考え方は革新的で、時代の先を行くものだった。P&Gは熱心にこれらに従った。

ナレッジ・ファネル

広告代理店まかせにしなかったから得られた知見

注目すべきは、P&Gはマーケティング活動のほとんどを外部の広告代理店に外注しなかったことだ。当時の広告制作には、何人もの専門的なイラストレーターが関わった。製品を可能な限り忠実に描く人、製品が使われる理想的な環境、あるいは夢のような環境を描く人などだ。

有名なイラストレーターの名前があると、宣伝されている製品の格も上がった。しかも代理店が提供したのは、優れた絵と色使いだけではなかった。広告制作面で専門知識を提供し、メディアバイイング〔新聞や雑誌などの広告枠を買うこと〕でも知見を提供したのだ。

また、調査部門や情報部門を持つ代理店もあれば、社会人口学的な市場セグメンテーションを行う企業もあった。さらには、ニューヨークやロンドンにキッチンスタジオを開設し、そこで主婦たちが新製品を試す様子を見られるようにしている代理店もあった。

こうした流れに反して、P&Gは消費者心理学を自分たちでマスターしようと決意した。新たな知識分野を他人にアウトソースしようとは思わなかったのだ。そのなかで、自社で行ったアンケートによって、家事をしている女性はラジオ番組を楽しんでいるということが見えてきた。

1933年にP&Gは大きく賭けに出て、ラジオドラマを昼間に放送するという実験を行うことにした。放送したのは史上初のホームコメディだ。大恐慌に襲われた1930年代、競合企業が広告費を削減する一方で、P&Gはラジオの予算を増やした。