暴力団員が乗ってきたらどうなるか
上述したように、タクシー運転手が客から乗車を求められた場合には、基本的には乗車拒否をすることはできませんが、例えば、乗車希望者が暴力団である場合にも乗車を拒否することはできないのでしょうか。
この点、ゴルフ場や銀行は、暴力団による施設利用や暴力団からの預金口座の開設を拒否することができます。これは、民法上の契約自由の原則により、ゴルフ場や銀行としては、取引相手を選ぶ自由があるため、暴力団とは取引をしないということもできるためです。
一方、タクシーの乗車については、道路運送法により、乗車希望者からの申込みがあった場合、タクシー運転手としては、原則として当該申込みを拒否することができないという点で、契約自由の原則が大幅に制限されています。
目的地が暴力団事務所なら拒否できる可能性も
ただ、乗車拒否することができる例外規定のうち、「当該運送が法令の規定又は公の秩序若しくは善良の風俗に反するものである場合」に該当し、乗車拒否することができるとも考えられます。
しかし、乗車希望者としては、自らが暴力団であると申告する義務はないので、タクシー運転手としては、乗車の申込みがあった際、見た目からは暴力団員であると判断することはできないでしょうし、仮に、乗車希望者が入れ墨等をしていて見るからに暴力団であると分かる場合でも、それだけでは法令の規定や公の秩序、善良の風俗に反するとは言えません。
そのため、乗車希望者が暴力団であるという理由だけでは乗車拒否をすることはできないということになります。
もっとも、例えば、目的地が暴力団事務所である場合、暴力団事務所への迎車の依頼があった場合、暴力団事務所から組長専従の運転手を派遣するよう依頼を受けたような場合には、「公の秩序若しくは善良の風俗に反する」ものとして、乗車拒否が認められるかもしれません。このケースはまだ判例がないので、今後裁判で争われることがあるかもしれません。