「私たちは人類全体の能力をかなり制限している」
おそらく真面目で優秀な自衛官だった彼は、宇宙体験を通じて「明確に自分の考え方が変わった」と語っている。油井と同様に「新世代」と呼ばれる宇宙の飛行士の中でも、例えば金井が宇宙に行くことを「出張」と、あえて軽いトーンで呼ぶのとは明らかに違う。
彼は宇宙に行くことで、地球の空気や水が、「たったこれだけしかない」と思うようになる。また、自衛隊時代は「敵」だと思っていたロシアも、宇宙では国籍を超えてミッションに挑むことに気づく。
油井は、稲泉にこんなことを語っている。
「環境問題も人類が同じ価値観を共有して叡智を結集させれば、解決できると思うのです。世界にはこれだけの人たちがいて、多種多様な技術があるわけですから。でも、実際には様々な問題が解決されない。それは価値観を合わせることが最も難しいからです。宇宙で仕事をして実感したのは、そんなふうに私たちは人類全体の能力のようなものを、かなり制限しているんだろうなということでした」
「地球が一つ」を実感として理解できるようになる
《全体として共通しているのは、地球を宇宙から見ることによって視点を変えることができる。宇宙に行ったことで相対的に物事を見られるようになるというのは、皆さんが話してきたことでした。宇宙では限られたリソースの中で活動しますから、油井さんのような思いに至ることもわかるのです。
ですが、これを文章で表現するのは難しい。彼らも宇宙に行くまで、「地球が一つ」と理屈としては分かっていたが、宇宙に行くと実感として理解できるようになると言うんです。
僕らも地球が一つであること、協力によって解決しなければいけない問題があることは、言葉ではわかっていますよね。でも、実際の社会はあちらこちらで問題が起きている。エンジニアや専門職として生きてきた彼らが、言葉以上に理解できる実感があるということを、また言葉にしようと思ったわけです。
実感をどう表現するかは難しいのですが、見た光景や体験をなるべく追体験できるように書きました。そして、僕の本ではおそらく初めてですが、あえてインタビューの一問一答を多めに取り入れています。なるべく本人の生きた言葉を感じ取れるようにしました。》