実際に、年功序列・終身雇用をうたう日本型雇用は、暗黙のうちにその勝ち組の人生設計を保証してくれていました。一回り二回り上の世代が、高度成長期にその勝ち組人生を実現していることも目の当たりにしてきましたから、自分たちもいつかは……とずっと考えてきたはずです。我慢して努力をすれば、経済的に成功して、家族も養えて幸せになれるという「給与・肩書」物差しの人生モデルですね。

心が満たされることが「豊かさ」の条件に

一方、今の若い人たちの価値観は大きく変わっています。彼らが求める豊かさの定義は、経済的にリッチになる成功ではなく、心が満たされ精神的に豊かになる「成幸」に変わってきています。努力することですぐに働きがいという幸せを実感でき、その積み重ねで「成幸」するという、「働きがい」物差しの人生モデルですね。

若手の部下を持つ皆さんなら日々感じていると思いますが、現代の優秀な若者に「今は我慢して働けば将来は豊かになる。だから四の五の言わずに言われたことをやりなさい」などと言おうものなら、途端にモチベーションを失い、早々に辞表を出されるだけでしょう。

「我慢して上司に仕えれば、出世して管理職になれるぞ」と励ましても、「できれば管理職になりたくないんですけど……」と切り返されるのがオチでしょう(面と向かってそうは言わないかもしれませんが、内心はきっとそう思っているはずです)。

「石の上にも3年」ということわざがありますが、それは全員が成功することを求めており、3年我慢すれば成功するという暗黙の共通認識があったから通じた話なのです。我慢を美徳化する日本型雇用の枠に若者を押し込めようとしても、「将来の成功なんて会社は保証してくれないし、そもそも経済的な成功なんて求めていないのだから、意味の感じられない3年なんて我慢できない」と思われるだけです。

この「給与・肩書」から「働きがい」に、プライドの物差しが変わっているのは、若者だけの話ではありません。若者は時代を映す鏡であり、現代の働く人たちすべてにとっても重要な考え方なのです。環境や時代が変わったのです。ミドル世代も、これからのキャリアを考える際は「給与・肩書」物差しを捨てて、「働きがい」物差しで考えるべきだと私は思います。