AIとラーメンを同列に語る場

人は何歳になっても今より成長できる。それが、熊田さんの持論だ。

通常、セミナーや講演は質疑応答を含めても90分間ほどだが、その短い時間の「前と後で、ちょっと違う自分になれた。ひとつ何かを得ることができた。みんなにそう思ってもらいたいんです」。

みんなというのは、参加者だけを指すのではない。セミナーの講師や登壇者もその対象だ。だから、熊田さんは、異なる分野の人同士のトークセッションを企画することがある。たとえば後述する六本木アートカレッジセミナーで行われたトークセッションのテーマは「AIとラーメン」。人工知能研究の専門家、東京大学の松尾豊教授とラーメン店チェーン一風堂を率いる清宮俊之社長という異色の組み合わせが実現した。

六本木ヒルズライブラリーは「人の持つ素直な向上心を応援する場所でありたい」と熊田ふみ子さん。

奇をてらったわけではなく、松尾教授との打ち合わせの中で生まれたアイデアだという。大いに盛り上がり、松尾教授は「世界的に人気の日本のラーメン界からAI化のプラットフォーム企業が出てくることを期待したい」と締めくくった。

「お招きする登壇者の方たちは他でもたくさん講演をしているような方が多いのですが、定番のテーマではなくて、ここでしか聞けない、話せないテーマをお願いするようにしています」

ユニークなアイデアを思いついたときは本当にうれしいとニッコリ笑う熊田さんだが、いったいどんなふうにアイデアの種を育てているのだろうか。

「情報や人を、全体ではなくキーワードでインプットしています。そのキーワード同士、点と点がつながったときに発見があります。情報源はやっぱり、人から入るものがいちばんです」

テキストの情報はそれ以上に広がってはいかないが、人からの情報には常にプラスアルファがある。

準備は最大のリスクマネジメント

熊田さんが手がけるイベントやセミナーの成功の裏にはいつも「考えられる限り最大限の準備」がある。

「企画したイベントが成功するように当日までに準備に最善をつくします。準備は最大のリスクマネジメントですから」

かつて、準備不足から手痛い失敗をした経験もある。

それは、海外から大物のゲストを招いてのトークイベントでのことだった。

「知人の推薦でお願いしたファシリテーターときちんと打ち合わせをすることなく当日を迎えたら、まったく話が盛り上がらなかったんです。ゲストの方もなんだか不機嫌になってしまって、会場も凍り付いたようなムードに包まれ……身が縮む思いでした。」

そんな失敗も糧にして、これまでの数々の経験から準備に手をかければかけるほどいいものができるという手ごたえを感じている。

「運よく、手をかけなくてもうまくいくことはたまにはあるかもしれませんが、手をかけて悪くなることは絶対にありません」

自分にできることは、とことん手をかけて、うまくいく確率を高めておくことだと熊田さんは考えている。

「例えば革製品は手入れをすればするほど素敵な色になるでしょう? 新しいものよりももっと内からにじみ出るような深みのある色になる。そんなイメージを抱いて準備に臨んでいます」