自宅から会社まで、1時間40分の行程

私は新入社員時代、JR中央線の立川駅からJR山手線の田町駅まで通勤をしていた。自宅から立川駅までは2.5kmほどあるため、まずは最寄りのバス停まで歩くところから通勤が始まる。大動脈の立川通りは1車線のため、朝は渋滞することが多く、12分程度はバスに揺られて立川駅に到着。そこから満員の中央線に乗り、神田駅で山手線か京浜東北線に乗り換えて、ようやく田町駅にたどり着く。ドア・トゥ・ドアで片道1時間40分の行程だった。

当時、満員電車通勤のベテランである父親と、たまたま勤務先が同じ田町だった。彼は「中央線の終点である東京駅よりも、ひとつ手前の神田駅のほうが乗り換えはスムーズなんだよ」と、私に教えてくれた。「乗り換えで歩く距離は少しでも短いほうがいい。これはワシが編み出した通勤術じゃ、ガハハ」と笑っていた。実にいじましいライフハックだが、つまりは、それほどまでに満員電車通勤は苦痛なのだ。

満員電車では、入り口近くに陣取ってしまったら、他の乗降客の動線をふさがないよう、駅に止まるたびいったん外に出なくてはいけない。運よくつり革をつかめたとしても、目の前の座席で気持ちよさそうに寝る人が途中で降りてくれることはめったになく、目的の駅に着くまで、ずっと立ちっぱなしということがざらにある。

満員電車のストレスに蝕まれる人々

揺れる車内はまるで“押しくらまんじゅう”のような状態になるし、口臭や体臭の強い人、多汗の人と密着することも少なからず発生する。女性と隣り合った場合には、とにかく手が女性の尻や胸に当たらないことを最優先に考え、無理な姿勢でもひたすら我慢することになる。なにより、狭い空間に人が密集しているがゆえの「圧」がすさまじく、全方位から荷重がかかり、身体のどこかにずっと痛みをおぼえたまま過ごすのが当たり前なのだ。

鉄道各社が、通勤ピーク時の過剰な満員状態を少しでも軽減すべく、最大限の努力をしているのは重々承知している。また、東京都など行政が主導する形で、時差通勤を推進しているのも事実だ。しかし現実には、相変わらず満員電車に揺られて通勤している人が大多数であり、それが大きなストレスとなって人々をむしばんでいるのである。