「その後、東京電力と協力体制を組み、研究が始まりました。そもそもガンマ線という高エネルギー放射を出す条件というのは、通常の自然原理の中ではなかなか発生しえません。なぜ雷が鳴るとガンマ線が発生するのかという部分が、とても興味深かったんですね」

そして、観測を開始したのが2006年。早速、翌07年には雷雲の中の放射線の観測に成功する。

鍵を握る2つの放射線

「07年の観測が我々のチームの最初の成果でした。そしてここ10年の間で、どうやら雷が鳴ったときに発せられる放射線と、雷雲の中で発生している放射線の2種類があることが判明しました。それが、雷が鳴ったときのコンマ数ミリ秒という短い時間に発生する大量のガンマ線である“ショートバースト”と、雷雲の中の電子が動くことによって観測される“ロングバースト”の2つです。それを、18年の1月に、世界で初めて同時観測することに成功したのです」

この観測は石川県金沢市の複数の高校で行われた。日本海沿岸の冬季雷は世界的に見ても雷雲が地上から近い距離に発生し、大きな電流が流れやすいという特徴を持つため、雷観測に適した場所なのである。

「観測は研究チームで製作した観測装置を金沢市の複数の高校に設置し、そこから送られてくるデータを遠隔で分析します。今回は、石川県金沢市の上空を通過中の雷雲から、1分間ほど発生し続ける微弱なロングバーストと呼ばれる放射線バーストを観測し、雷放電が発生した後でロングバーストが消失しました。続いて、原子核反応に由来する1秒未満の短くて明るいショートバーストの観測に成功したのです。今回の観測では、ロングバーストが消失したと同時に、ショートバーストと雷放電が発生しており、ロングバーストがショートバーストや雷放電そのものの発生を促進した可能性を見出すことができました」

そもそも、ガンマ線が、雷から観測されたこと自体、不思議な現象なのだという。

「本来、ガンマ線が自然界で発生する原因は非常に限られています。1つは太陽光からの高エネルギー粒子が、地球の大気中で化学反応を起こし、最終生成物としてガンマ線が生まれるパターン。簡単に言えば、地球外からの高エネルギーによるものです。もう1つは、一定の確率で壊れるときに放射線を出す、放射性同位体という元素が存在します。これらが地球内部でのガンマ線の発生源になっているのですが、これらの元素は地球が誕生するはるか昔につくられている物質なんですね。