絵画や音楽のイノベーションにも着目

本書は経済史を振り返りながら会計の発展を解説しているのだが、田中氏は併せて絵画や音楽のイノベーションにも着目。経済史や会計史、絵画・音楽史がパラダイムシフトしている瞬間を描いているところに面白さがある。

田中靖浩『会計の世界史』(日本経済新聞出版社)

例えば「17世紀のオランダ」。商人たちは市場を発展させ、絵画までも「市場取引財」に変わっていった。市民が買い手になるにつれ、画家たちは教会の巨大な壁画ではなく、家に飾る小さな風景画や静物画を描くようになった。「この時代の“光の画家”と呼ばれるレンブラントの代表作は『夜警』ですが、街の警備にあたる男たちから頼まれて描いた集団肖像画です」。

一方でオランダは、株式会社という革新的手法で見知らぬ人々(ストレンジャー株主)から巨額のお金を長期的に調達し、スペイン・ポルトガルが独占するインド航路の貿易を成功させた。そのためにつくられたのが世界初の株式会社、東インド会社だ。「ストレンジャー株主に対する儲けの報告(account for)が、会計(accounting)の語源です。資金を預かった経営者から、資金を提供した株主に向けて報告を行う――ここが会計のルーツなのです」。

田中靖浩
公認会計士
田中靖浩公認会計士事務所所長。産業技術大学院大学客員教授。1963年生まれ。外資系コンサルティング会社などを経て現職。
(撮影=大泉 裕)
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