どのように税制を活用するべきなのか
では、どのように税制を活用するべきなのか。湊氏によれば、「所得税で大事なのが、まず制度全体がどうなっているのかを認識すること」だという。
まずは所得税制度の全体像を確認してみよう。所得税がかかる所得は10種類に分類される。そしてこの10種類の所得は、税率の掛け方が異なる「総合(合計)課税グループ」と「分離課税グループ」に分けられる。
「総合課税グループ」は、基本的に通常の所得にかかるもの。収入が多ければ税金も多く負担してもらおうという発想で、所得が上がるにつれて税率も上がる「超過累進税率」だ。一方の「分離課税グループ」は、臨時的にかかるもの。退職所得のように、一生の中の大事なイベントで入ってきたお金を、ごっそり持っていかれてしまうと生活が困難になる可能性が高い。そのため、税金が安めに設定されている。
「この全体像が頭に入っていると、取るべき節税対策が見えてきます。つまり、現在自分のキャッシュフローが総合課税グループにある人は、分離課税グループに移すことで税金がグンと安くなる。このレーンチェンジする仕組みを知っておくことが重要です」(湊氏)
会社員の税金関係は年末調整で会社が処理するため、自分では手の付けどころがないようにも思える。しかし、自分でレーンチェンジできる仕組みもある。そのひとつが、自分で決めた掛け金を積み立てて運用し、60歳以降に受け取る私的年金制度「iDeCo」だ。
「iDeCoに加入し一時金として受け取れば、それは退職所得となるので、給与所得の一部を退職所得にレーンチェンジしたことになります。iDeCoの運用先は銀行の定期預金でも認められるのに、活用している人は案外少ない。非常にもったいないですね」(同)
また、株式の譲渡が分離課税グループであることも注目したい。現在の所得税の最高税率は45%で住民税は10%なので、合計55%の税金がかかる。これに対して株式は、どんなに儲かっても税率は一律20.315%。圧倒的に有利だ。
ベンチャーなど、企業の創業期にかかわった人たちの財産が圧倒的に残るのは、ストックオプション税制を利用していることが大きい。自社の株式を売却するとき、給与所得ではなく譲渡所得で課税されるため、節税効果は非常に高くなる。
「勤務先にストックオプション制度がなければ活用できませんが、これから転職する際、制度があるかないかは、ひとつの目安になります。iDeCoもストックオプション税制も、増税傾向にある中で設定された、自ら資産をつくると同時に節税効果もある制度。今後、さらに同じような制度がつくられていく可能性があるので、知見を広げておきましょう」(同)