2024年度上期をめどに紙幣のデザインが変わる。1万円札の肖像画に選ばれたのは、「日本の資本主義の父」と呼ばれる実業家の渋沢栄一。歴史家の加来耕三氏は、「実は、渋沢はそれ以前にも一度紙幣の肖像に採用されたことがある」という——。

※本稿は、加来耕三『紙幣の日本史』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

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1963年発行の「千円券」では伊藤博文に負けたが…

平成が終わりに近づいた今年4月9日、来たる2024(令和6)年度上期に3種の新紙幣が発行されるとのニュースが報じられました。

新紙幣の筆頭、一万円券の肖像に決まったのは、日本の「資本主義の父」といわれ、第一国立銀行(現・みずほ銀行)や東京株式取引所(現・東京証券取引所)など500以上の企業や団体の設立・運営にあたった、明治・大正期を代表する実業家・渋沢栄一です。

渋沢は、1963年発行の千円券の肖像候補にも挙がっていましたが、そのときは伊藤博文に決まり、機会を逸していました。

しかし実のところ、渋沢はそれ以前に一度、紙幣の肖像に採用されていました。日本が大日本帝国と呼ばれた時代、時の大韓帝国を併合する前の朝鮮半島において、日本政府の監督下、事実上の中央銀行にあたる朝鮮銀行から、1902年、渋沢が描かれた十円紙幣が発行されていたのです。