キャッシュレス化を推進する狙いも

特に、ポイント還元制度は税率引き上げが人々に与える負担感を緩和し、消費者心理を下支えするために有効だろう。この制度では、2020年6月までの間、最大5%の還元を受けることができる。

それに加え、本制度には“キャッシュレス化”を推進する狙いもある。冷静に考えると、現金の利用にはさまざまなコストがかかる。現金の保管や輸送、偽造紙幣への対応などはそのよい例だ。キャッシュレス化の導入は、経済全体の効率性を引き上げることにつながるとの見方は多い。

そのほか、軽減税率制度には、贅沢ぜいたくをするゆとりのある人からはより多くの税金を徴収し、出費を抑えたい人にも配慮することを狙っている。すでに英独仏などでは、飲用水をはじめとする飲食料品に軽減税率が適用されている。

一連の増税対策は、相応の効果を発揮していると見てよいだろう。8%の消費税導入前の2014年3月、全国百貨店売上高は前年同月比で25%程度も増えた。今回も、10万円を超えるテレビや洗濯機など高額商品などに関しては、一部で駆け込み需要が発生した。それでも、2019年8月の百貨店売り上げは2%程度の増加と、駆け込み需要発生のマグニチュードは前回より穏やかだ。10月初旬の時点で、消費税率引き上げの前後で、国内経済に無視できない変化が生じているようには見えない。

同時に、世界経済の先行き懸念は徐々に高まりつつある。今後、需要の反動減を含め、個人消費をはじめとするわが国経済のファンダメンタルズがどうなるかは、慎重に確認していかなければならない。状況によっては、追加の対策が必要となる展開もあり得る。

今後、改善が求められる徴税手法

ただ、ポイント還元制度に関しては、その実施方法が複雑すぎるという問題が起きてしまった。10月1日の消費税率引き上げ当日、一部の企業では消費税率引き上げに伴うシステムの切り替えが間に合わず、キャッシュレスの支払いに対応できなかったケースなどが発生した。

政府は理論的によく練られた増税対策を実施したものの、実務や実際の消費の現場への負担を考えるところまでは十分に手が回らなかったようだ。こうした、複雑かつ込み入ったポイント制度などのデメリットは、ていねいに解消されなければならない。制度を整えても、企業や消費者が使いづらさを感じる状況が続くと、その効果も低下してしまう恐れがある。

政府が経済の安定を目指しつつ、長期的な視点で財政の再建を進めるためには、国民の納得感を得ることが欠かせない。政府は、小売店舗などの現場からの意見を収集するなどして、より分かりやすいポイント還元制度などの運営を目指し、実践していく必要があるだろう。