中国人観光客は家政婦を雇うほどに裕福
とはいえ、彼らは「富裕層」と呼ばれることにも、とまどいを感じます。資産1兆円の大富豪に比べたら「自分たちはアリみたいにちっぽけな存在だ」という自覚があるからです。上を見れば、とんでもない上がいる。
そのへんの微妙な感覚をすくいとるために作った言葉が「プチ富裕層」なのです。いま日本を個人旅行している人たちの主流と考えてください。
以前に「日本を個人旅行している中国人の全員が、家政婦を雇っていると考えてもらって間違いではありません」と書いて、けっこう反響がありました。格差社会におけるミドルクラスと、日本のような平等社会におけるミドルクラスを、同じようにイメージしてしまっては本質を見誤る。
ミドルクラスという言葉を聞いたときに日本人がイメージするものより、はるかに豊かな人たちだと考えたほうがいいのです。
80年代に買った家の値段は今や100倍に
平均所得だけを比較すると、中国と日本ではまだまだ大きな開きがあります。全体を見ると、日本のほうが圧倒的に豊かなのです。
にもかかわらず、中国のプチ富裕層には、年に何回も家族連れで海外旅行している人が少なくない。そんなことをやっている日本人はそうそういないはずです。では、どうしてそれが可能かというと、やはり不動産バブルの影響が大きい。
かつての中国では、家も土地もすべて国家の所有物でした。そこに「商品住宅」という言葉が登場したのが1980年代のなかば。都市によって違いはあるのですが、だいたいこのころ、不動産の「使用権」を売買できるようになった。70年間という期限付きではあるものの、住宅を所有できるようになったのです。
それまで住んでいた住宅は、国から支給されたものでした。当時、そこを百数十万円で買う権利があたえられたのです。それがいまや、上海や北京なら数億円になっている。中心部の一軒家になると、数十億円出さないと買えません。
住宅価格の高騰は地方都市でも起きていますから、地方でもマンションを買うのに数千万円は必要です。要するに、1980年代に買った値段の100倍になった。日本の不動産バブルの比ではないのです。
ピーク時より遅れて買っても10倍で売れる
もちろん「買う権利」ですから、買わなかった人もいます。でも、目端のきく人は、いろいろやりくりして、このときに何軒もの家を買っている。六〇後(1960年代生まれ)より前の世代は、こうやってお金持ちになったわけです。
七〇後(1970年代生まれ)はこの「用意ドン!」の時期には間に合いませんでした。とはいえ、住宅価格は現在にいたるまで上がり続けているので、いまと比較すると、ものすごく安い値段で仕入れられた。遅れてスタートしたとはいえ、買値の10倍になるのが当たり前の世界です。これですら日本のバブルより、よっぽどすごい上がり方です。