相次ぐ株価の乱高下は二大国がモノで争った表層で起こったことにすぎない。経済の血液であるカネそのものを使っての戦争は、社会そのものを揺るがすことになる。混乱を生き抜く最良のツールこそ、インテリジェンスを基にした合理的で冷静な視点だ。こう断言できるのは、私自身が暴力と金が連座する、混乱が日常の黒い経済の世界を生き抜いてきたからにほかならない。
現在発売中の拙著『金融ダークサイド』(講談社)は、国際金融の生々しい現実を知る最良のテキストだと自負している。すでに金融が混乱することは宣誓されている。今こそ国際金融の現実を知るべきときだと言えるだろう。
9.11と金融監視
ネット通販が当たり前になった現在では、多くの商品を個人輸入することができる。決済はクレジットカードだが、世の中の貿易のすべてをカードで行えるはずがない。ドルでしか決済できないうえ、取引金額の大きな石油や穀物、また鉄鋼、車などの輸出入取引で決済するときの送金手段として用いられるのが金融メッセージングサービス「SWIFT」(スイフト)だ。
ほぼすべての国際決済が通過するSWIFTは1973年にベルギーのブリュッセルに設立された共同組合形式の団体で、つくり上げたシステムは現在でも、海外送金のスタンダードな方法となっている。
通常、国内銀行間の金融取引は各国の中央銀行を通じて行うが、外国の銀行へ送金する場合には中央銀行が存在しない。ということで、通貨ごとにコルレス(Correspondent=遠隔地の取引先の略)銀行という中継銀行が指定されている。
現在日本では東京銀行を吸収合併した三菱UFJ銀行や、SMBC(三井住友銀行)などがコルレス銀行になっている。日本の地方の銀行から、アメリカのユタ州の銀行口座にドルを送金する場合、まず三菱UFJ銀行やSMBCを通じて米ドルのコルレス銀行にテキストメッセージが送られ、そこからユタ州の銀行口座へとテキストメッセージが伝送されるということになる。その後、SWIFTが銀行に対し支払いを指図するという流れだ。
すなわちSWIFTには誰がいつ、誰宛てにどこの銀行でいくらをどういうふうに送ったかという膨大な世界中の送金記録が収められている。麻薬の国際取引などで決済する場合など、黒い経済人たちもSWIFTを使って送金を行っていた。汚い金がやり取りされていることがわかっていたのだが、一方で金融というデリケートな個人情報であることから、犯罪捜査のためにSWIFTをこじ開けることは倫理面から躊躇されてきた。この倫理を破壊したのが、アメリカだ。きっかけになったのが01年9月11日に起こった、アメリカ同時多発テロ事件である。