黒い経済人のツール

アメリカがつくり上げた金融の規制・監視システムは、時にクリーンな送金さえ滞らせるほど強力で、実体経済に与える影響が社会問題になっている。もちろん、本来のターゲットの「黒い経済界」は困窮することとなった。だがこの強固なシステムを、やすやすと突破するツールをフィンテック(金融技術)が生み出す。「暗号資産」がそれである。

暗号資産の利便性が世の中で認知されるきっかけになったのが、13年のキプロス・ショックだ。キプロスは、GDPの4倍以上を国内銀行が預かる世界有数の金融立国だった。だが10年のギリシャ危機の影響で同国の金融機関が経営危機に陥る。EUがキプロス救済の条件として求めたのが、銀行の預金封鎖だった。このとき、預金者の一部が「ビットコイン」を使って資産を国外に避難させ封鎖を逃れたのだ。

暗号資産のベース技術「ブロックチェーン」は分散型台帳を数珠のように連ねていく技術だ。複数の場所に同じ情報を保管するという仕組みで一般のインターネット回線を使い、高い匿名性を維持しながら事実上改ざんが不可能な、極めて高速な資金移動を可能にするものだ。

この特性こそ規制・監視に喘ぐ「黒い経済界」が求めてやまないものだった。麻薬や売春、テロ資金などありとあらゆる世界中のアンダーグラウンドマネーが、暗号資産を使って資金移転され始めた。そればかりか「黒い経済人」は暗号資産を資金調達のツールとしても利用し始めた。

17年にビットコインが暴騰し、暗号資産の投機ブームが起こる。誰でも発行できるということ、「ビットコイン同様にいずれ上がる」という思惑、「どうせ上がるなら新規発行した安い段階で入手して高く売ったほうが儲かる」という投機欲、それらが重なり、ビットコインもどきの暗号通貨を発行して、発行主体が資金調達を行ったのがICOブームだ。

株の世界で言うところの新規発行株をインサイダー取引によって格安で入手し、相場操縦で高く売り抜けるのと同じ仕組みだ。だが暗号資産のインサイダー取引や相場操縦を規制する法律は今のところ存在しない。ICOによって世界全体で調達された資金は、18年だけで2兆2638億円以上。有名人を広告塔にした詐欺的なコインが話題になったことを覚えている人も多いだろう。

当然のことだが、英語が使えて感度の高い日本の黒い経済人たちもICOに群がった。ちょうどこの時期、特に関西圏では、ホームレスなどの名義で作った銀行口座の闇取引額が暴騰している。暴力団排除条例で新規口座を作れなくなった黒い経済人たちが、ICOや暗号資産取引を行うために口座を求めたことが原因だ。「資金移転」「資金調達」「インサイダー」と、黒い経済界にとって「走・攻・守」揃った名プレイヤー「暗号資産」を手に入れた黒い経済界は、わが世の春を謳歌することとなった。