陸上名門校出身者ではないのに、ぐんぐん伸びた理由

名古屋大学経済学部に現役合格すると、大学で再び輝き始めたのだ。1年時の世界ジュニア選手権5000mで5位入賞。2年時と3年時には、日本インカレ5000mで連覇を達成した。4年時にはユニバーシアードの1万mで金メダルを獲得している。

大学は自宅から通えないこともなかったが、ひとり暮らしだった。「いろんなことを経験して、ぜんぶ自分でやってみたいという思いがありましたし、両親も一度家から出したほうがいいと考えていたんです」。さらに意外なことに、「大学時代に走る楽しさを教えてもらいました」と話している。

鈴木が他の陸上エリートと違うところは、高校、大学と「陸上名門校」にいたわけではなく、自分自身で考えながら競技を続けてきたことだ。朝練習は週に4回ほどで、自宅まわりを少し走る程度。そのかわり、本練習では男子選手と一緒に質の高いメニューをこなしていたという。

日本の女子長距離界は、強豪チームの多くが選手たちを厳しく管理している。寮を完備して、栄養バランスのとれた食事も提供。体重チェックをしているチームも少なくない。しかし、鈴木はまったく違う環境で競技を続けてきたことになる。

「コーチに依存することはなかったですけど、中学、高校、大学と、その時々に出会うべきコーチに出会えた。その出会いが今につながっていると思います」

大学卒業後は、女子陸上部を創部したばかりの日本郵政グループに1期生として入社した。ひとり暮らしを経験しているだけに、「恵まれた環境で競技ができてうれしいです」とトレーニングルームを完備する選手寮に驚いていた。入社1年目の秋には3000mで8分58秒08をマーク。中学3年時以来8年ぶりに自己記録を更新すると、その後は日本長距離界のエースとして羽ばたいていく。

見かけはおとなしそうだが超強気「私はそんなに性格よくないので」

身長154cm、体重38kg。小柄でおとなしそうな外見に騙されてはいけない。2015年の北京世界選手権は5000mで決勝に進出。最後の直線では長身のオランダ人選手と激しく競り合った。レース中はライバル選手の肘がガシガシ当たっていたが、「全然気にしなかったです。こっちもやってやるぞ、という勢いでしたから。私はそんなに性格よくないので。大きな選手が相手でも負けてられません」と話すほど強気なレースを見せる。

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このときは日本歴代5位となる15分08秒29をマークするも、0.29秒差で「入賞」を逃した。翌年のリオ五輪も入賞には届かない。この頃、マラソンについては、「あまり長いビジョンでは考えていないのでわからないですね。まずは目の前のことに集中しています。力がついていかないことには、目標として言葉にできない。ある程度見えてきたところで、こうなりたい、というタイプなんです」と話していた。

2017年のロンドン世界選手権は1万mに出場して10位だった。そして昨夏の北海道で初マラソンに挑戦。27歳にして2時間28分32秒で優勝し、MGC出場権を獲得した。