とはいえ、北朝鮮の中国への属国意識には裏に敵意が潜んでおり、完全な隷属状態にあるわけではありません。金委員長の父の金正日は死の間際に、「中国には気をつけろ」と言い残したそうです。金正恩体制に移行してからは、国内のイベントで当局者が聴衆に対し、「日本は100年の敵だが、中国は1000年の敵だ」と、反中感情をあおったこともありました(*8)

「中国憎し」の感情が、トランプへの接近という「アメリカ抱き付き作戦」に金委員長を駆り立てているのかもしれません。結果として北朝鮮は、中国とアメリカに二股外交を仕掛け、中国という後ろ盾は確保しつつ、アメリカへの接近で中国の過度の介入を牽制するという、絶妙な外交バランスを取ることに成功しています。

金委員長ら北朝鮮の首脳たちは、彼らの祖先が味わった属国としての悲哀を省み、これを歴史の教訓として、中国の属国支配から抜け出そうと必死なのです。

北朝鮮への追従こそ崇高な使命?

一方、韓国の文大統領は、2017年12月に中国を訪問した際、中国からあからさまな冷遇を受けましたが、何の抗議もできませんでした。空港で大統領を出迎えたのは、格下の外務次官補。訪中初日に習主席は会わず、両国首脳会談後、共同記者会見は見送られ、食事会もありませんでした。

さらに、文大統領に公式随行した韓国の記者2人が、会議場に入ろうとした際に中国の警備員に集団で殴る蹴るの暴行を受け、重傷を負う事件も起きました(*9)。大統領の随行記者がこういう扱いを受けることなど、通常ではあり得ないことです。それでも、韓国は唯々諾々と、かつての宗主国のように、中国に恭順し、逆らいません。

韓国は属国意識にとらわれ、被害者意識で自己を慰撫いぶしながら、甘えの構造の中で閉塞していくばかりです。その意味では、世界最貧国の1つである北朝鮮の方が皮肉にも、自力打開への健全な意志を持っていると言えます。そんな北朝鮮の姿を自分たちの屈辱や虚無を照らす救済の光ととらえ、その光に追従することこそ崇高な使命だとする考え方が、アメリカや日本との関係を軽視し、北朝鮮への宥和ゆうわ政策に邁進する文在寅政権、およびその支持層の行動の根底にあるようにも思えます。

大国の無慈悲に踏みにじられ続けた歴史を持つ韓国が見ている風景は、われわれの想像力では及びもつかないものなのかもしれません。

(*1)「文大統領『日本、盗っ人猛々しい』ホワイト国除外で」朝日新聞2019年8月2日夕刊
(*2)「韓国大統領、日本に『対話と協力』呼び掛け=東京五輪『共同繁栄の道』」時事ドットコムニュース 2019年08月15日
(*3)「『安倍政権糾弾』…ソウルで大規模集会」中央日報日本語版(ウェブ版)2009年8月4日
(*4)“South Korea's Leader Vouches for Kim's Sincerity, as Critics See Deception” by Choe Sang-Hun, The New York Times (online) Oct. 29, 2018
(*5)“South Korea's Moon Becomes Kim Jong Un's Top Spokesman at UN” by Youkyung Lee, Sep. 26, 2018, Bloomberg.com
(*6)「文在寅大統領『南北平和経済の実現時は一気に日本経済に追いつく』」中央日報日本語版(ウェブ版) 2019年8月5日
(*7)「北朝鮮、韓国と『再び対座せず』 文大統領の対話呼びかけ拒否」ロイター、2019年8月16日
(*8)“North Korea Stokes Anti-China Sentiment in Response to Tougher Sanctions” Radio Free Asia, 4 Jan. 2018
(*9)「【コラム】中国警護員の韓国記者暴行…暴力を『淡々」と受け止めろとは」中央日報日本語版(ウェブ版)2018年1月19日

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