高級フレンチレストランが料理の名前を「オマール海老のカルパッチョ、マンダリンと根セロリのカリソン仕立て、黒トリュフとトピナンブールの軽やかなソース」などと長たらしくするのはなぜだろうか。なぜ「エビの冷製サラダ」ではダメなのか。東京大学経済学部の阿部誠教授は「われわれが味わっているのは情報だからだ」という——。
※本稿は、阿部誠『東大教授が教えるヤバいマーケティング』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
1億円のピアノの音色を聴き分けられる人
お正月や番組改編期の特別番組として恒例になった「芸能人格付けチェック」を見たことがありますか? 1本100万円のロマネ・コンティと1本3000円のチリ産カベルネ・ソーヴィニヨンをブラインドで比較して、高級ワインを嗜んでいるはずである芸能人の半数以上が答えを外してしまいます。通常、私が自宅で飲む赤ワインは1000円もしないので、3000円ぐらいになるとかなり質が高いのかと気になったりします。
その他にも、気仙沼産高級フカヒレと春雨の味の違いが分からない、1億円のスタインウェイと20万円の中古のタケモトピアノでは音が同じように聴こえる、小学生が描いたのならまだしも、サルが描いた絵と10億円のモダンアートとを区別できないなど、滑稽ではありますが、おそらく自分も分からないだろうと、変に納得をしながら番組を見ています。
似たような事例として、ワシントン・ポスト紙に掲載されたジーン・ウェインガーテン氏による2007年4月の記事「朝食のまえの真珠」を紹介しましょう。この記事は、ラッシュアワーで慌ただしい米国の首都ワシントンの地下鉄駅構内で、世界的に有名な演奏家ジョシュア・ベルが、素性を隠しストリート・ミュージシャンとしてバイオリンを弾いたときの人々の反応を書いたものです。