試飲前に中身を知ると評価が下がるカラクリ

結果は、バルサミコ酢入りビール(B)を好んだ人の割合は、ブラインド条件が一番高く(59%)、事前条件が一番低くなって(30%)、この差は統計的に有意でした。事前条件に割り当てられた多くの被験者が、おそるおそるBを試飲していたことからも、この結果は容易に想像できました。事後条件でBを好んだ人の割合(52%)は、この二つの条件の中間になりましたが、事前条件の割合より有意に高く、ブラインド条件とは有意な差がありませんでした。

結果をまとめると、バルサミコ酢入りビールを好んだ人の割合は、【ブラインド条件】≅【事後条件】>【事前条件】となったのです。つまり、ビールを飲んだあとでバルサミコ酢のことを知った被験者は、そのことをまったく知らない被験者と同じくらい気に入ったのですが、そのことを試飲前に知ってしまうと、選好は大きく下がるのです。

ビジネスには雰囲気も重要

このことから何が分かるでしょうか。経験が知識に惑わされないのであれば、バルサミコ酢が入っているという知識は試飲の前に得ようが、あとに得ようが、ビールの選好には同じ影響をもたらします。したがって、ここでは、知識が経験自体を変えたと解釈すべきです。

事前条件の場合は、飲んだときに感じた普段と少し違う味や曖昧性の理由を、ビールに本来入れるべきでない添加物(バルサミコ酢)のせいだと思い、試飲自体がネガティブな経験に仕立て上げられたのでしょう。他方、事後条件の場合には、曖昧性はこのビールの特徴であって、必ずしも(飲んだあと初めて存在を知った)添加物のせいではないと考え、試飲経験は中立のままなのです。

ここから得られるマーケティングの示唆は、ビジネスでは、消費者の経験に影響を与える副次的な要素を理解することが重要であるということです。高級レストランであれば、味だけでなく、豪華な内装や雰囲気、ウェイターのマナー、美しい食器、さまざまな形状のワイングラス、これらすべてが食事経験に重要な役割を果たします。メニューの表記も、単に「エビの冷製サラダ」などとするのではなく、「オマール海老のカルパッチョ、マンダリンと根セロリのカリソン仕立て、黒トリュフとトピナンブールの軽やかなソース」といったものにするべきです。