消費者の期待値が経験の質を上げる
コンサートであれば、ホールの環境・内装も非常に重要です。製品ではブランド名が期待を高めます。同じようにつくられたバッグでも、COACH、Louis Vuitton、キタムラとブランド名が付くことによって、所有体験が高揚します。つまり消費者の期待を上げることが、経験全体の質を上げることにつながるのです。
ここで一つ問題が出てきます。一般的に顧客満足度は、購買後の知覚パフォーマンス(価値)と購買前の期待との差で定義されます。つまり得られた価値が期待を超えれば超えるほど、顧客満足度は高まるのです。しかし、ここで見たように、期待を上げれば消費経験自体の価値も上がるので、顧客満足度を上げるために期待と知覚の差を大きくすることは、なかなか難しいということです。
コカ・コーラは脳を活性化させる!?
みなさんは1980年代に一時期、日本でも行われた「ペプシチャレンジ」というキャンペーンをご存じでしょうか? これは一般消費者を対象に、ペプシコーラとコカ・コーラをブラインドで飲み比べてもらい、より多くの人がペプシコーラを好んだというCMです。
一方、両方のコーラのラベルを隠さなかったコカ・コーラ社による味覚調査では、より多くの人がコカ・コーラを好んだ結果になりました。これも知識が経験に影響を与えた事例ですが、これを神経科学の観点から研究した2004年のマクルーアをはじめとするヒューストンのベイラー医科大学神経科学チームらの論文を紹介しましょう。
彼らはfMRI(機能的磁気共鳴画像)を用いて、コカ・コーラとペプシコーラを飲んだとき、脳のどの部位が活性化するかを、ブランドを見せた場合と隠した場合とで比較しました。
実験は、被験者がfMRIの大騒音の中で仰向けになり、口に咥えたチューブから液体を流し込まれるという、通常コーラを飲む状況とは大きく異なった環境で行われました。