確証バイアスがないと、ものの区別はつかない
グラミー賞も受賞したジョシュア・ベルは、カジュアルな服装に野球帽をかぶると、1億円以上もするストラディバリウスでコンサートと同じ曲を弾きました。45分間の演奏中、ベルの前を通った1097人のうち、立ち止まって耳を傾けたのはたった7人。半数以上の人は見向きもせずに目的地に向かっていったのでした。もらったチップはわずか32.17ドル、そのうちの20ドルはベルと気付いた人からのものでした。
この状況は隠しカメラによってビデオ撮影もされていました。ウェインガーテンはこの記事で、新聞等の報道、文学、作曲に与えられる米国でもっとも権威あるピューリッツァー賞を獲得しました。
その分野の専門家でもない限り、一流のものとそうでないものの区別は、一般人にはなかなかつきません。しかし事前に「大変、貴重なものだ、高価なものだ」という情報を知ると、そう見えてくる、そんな感じがしてくる効果は、確証バイアス(自分が欲しい情報だけを探し、信じること)の一種といえるでしょう。それではもし、情報がテイスティング(消費)のあとに与えられたのならば、人はどう判断するでしょうか?
バルサミコ酢入りのビールはうまいか?
ここでは、コロンビア大学のリーらによる興味深い実験を紹介します。まずはテイスティング用に2種類のビールを60ミリリットルずつ用意しました。Aは普通のバドワイザー、Bはそれにバルサミコ酢を微量(10ミリリットルに対し1滴)加えたものです。そして被験者を三つのグループに分けて、それぞれ異なった状況でテイスティングをしてもらいました。
事前条件では、この2種類のビールの中身を説明したうえで試飲させて、どちらが好きか評価してもらいます。事後条件では、両方のビールをまず試飲させてから、AとBそれぞれの中身を明かして、どちらが好きか評価してもらいます。
ブラインド条件では、事前・事後ともに何も伝えずに2種類のビールを試飲してもらったあとで、どちらが好きか評価させます。中身を知ったあとに回答を変えてしまう後知恵バイアス(バルサミコ酢入りのBの方が好きだというと味音痴だと思われてしまう)の影響を最小限に抑えるために、どちらが好きかの評価は、(1)自己申告、(2)選んだ方のビールを1杯無料でプレゼントする、(3)レシピ(10ミリリットルに対し1滴の割合)とともにバルサミコ酢を用意して、プレゼントしたバドワイザーに自発的に酢を加えるかを隠れて観察する、の3通りで判断しました。