ドライバーとは「例文」で会話できる

さて、ラッセルにあらためて聞いてみた。

「グラブは日本に進出しないのですか」
「グラブとしては今のところは東南アジアにフォーカスしていきたい。域内には6億5000万人のお客様がいますし、エリアとしても大きい。それに成長の度合いもポテンシャルがある。ただ、私は日本に3年間、暮らして仕事をしていました。とてもいい国でした。ですから、グラブが進出する機会がくることを望んでいます」

写真提供=Toyota Motor Asia Pacific
出発地点と到着地点を入力する画面

わたしはシンガポールで実際にグラブのアプリを使ってみた。グラブの配車サービスにはいくつかの種類がある。JustGrab、GrabTaxi、GrabCar+といったもので、JustGrabは乗客のもっとも近くにいるグラブ車両のこと。GrabTaxiはグラブと契約しているタクシー、GrabCar+は高級車、高評価ドライバーの車両だ。乗車料金はJustGrabというライドシェアの車がもっとも安く、GrabTaxi、GrabCar+はやや高い。使い方は簡単。アプリを使って自分の現在地と目的地を入れるだけで、料金は乗る前に表示される。便利だなと思ったシステムはドライバーとやり取りするとき、アプリに標準的な例文がすぐ表れること。

ドライバーから「今、着いた。あなたはどこですか?」と連絡があったとき、「えーと、I’m comingでいいのかな」などと英文入力するのは面倒だ。

だが、グラブのアプリではドライバーからの英文が表示されたら、すぐに「今、向かっています」「待ち合わせたホテルのエントランスにいます」といった例文が英語で表示される。あとは例文をタップすればいい。中学校で習った英語を思い出しながら、作文しなくても済むのである。

トヨタの新車をドライバーにレンタル

また、乗ってみると、ボロボロの車というのはなかった。GrabCar+のドライバーに聞いてみたら、「これはトヨタの販売店からレンタルしている新車だ」と威張っていた。

トヨタはグラブに10億ドルも出資し、取締役を派遣している。そして、現地のトヨタ販売店ボルネオ・モーターズがグラブ保有のトヨタ車の補修を担当しているという。ライドシェアの車は個人の車よりも稼働率が高いから、部品の摩耗も早い。事故や故障を予防するために、1万kmを走ったら、販売店で定期点検することになっているのだという。

グラブ保有車のうち何%かを占めるトヨタのコネクティッドカーは、車載器でインターネットに接続し、走行データを収集している。トラブル時に車両状態を把握することで、本部がドライバーをサポートするとともに、運転挙動を踏まえたドライバーへの各種アドバイスを実施していく計画だ。また、各車両の走行状況、車両状態に関するデータを基に、点検・補修タイミングの最適化も図っていく。結果として、コネクティッドカーのグラブ車は車両の調子もよく、ドライバーは安全運転を励行するようになっている。

ドライバー自身のプロフィールはアプリに出ているし、サービスに不満があればレビューすることもできる。これで結果としてドライバーの接客態度はよくなっている。そして、料金は乗車前に決まっているから、遠回りすれば損をするのはドライバーだ。ボラれることもない。