母親はいったい何歳まで働かなければいけないのか
この事実を伝えると、母親と長女は顔を見合わせて苦笑いをした。
「母は何歳まで働けばよいのでしょうか」
定年時期をずらしていくつかシミュレーションしてみると、定年を10年あまり延ばし81歳まで働けば、90歳まで預貯金をもたせられることがわかりました(図表3)。
「81歳といえば、うちの職場の最高齢女性スタッフの年齢です。先輩を見習わないといけませんね」
と、母が言うと、「そうじゃないでしょ!」と長女が叱責した。
「働き続けられるなら、それはいいのですが、母は血圧が高く病院に定期的に通っています。お薬で安定させていますが、今後どうなるのか不安です。先生、なんとかなりませんか」
75歳まで働いていただけるならなんとかできるかもしれないと答えると、それならば現実的だということで、もう一段の見直し案を提示することになりました。
几帳面な長男と楽天的で大ざっぱな母親
母親と長男の暮らしぶりを深堀りすると、几帳面な長男と楽天的で大ざっぱな母親の姿がそこにありました。住まいのこだわりはなく、母の勤務先から遠くなければそれでいい、父が亡くなったのでもっと狭い部屋でいい、という話も聞くことができました。
「次の面談には兄も連れてきます。定年後だけでなく、母が入院したり、亡くなったりしたら、兄の生活がどうなるのかもわかるようにしておいてもらえますか。これを機に、現実に向き合ってほしいです」
まっすぐに私を見て話される長女に向かって私はこう答えました。
「わかりました。それぞれシミュレーションしましょう。ちなみに、お母さまに万一のことがあると、お母さま自身の老齢年金だけでなく、遺族年金の受給も打ち切られます。つまり、収入はゼロです。お兄さまが65歳になれば老齢年金が受け取れますが、お兄さまの加入状況では年52万円程度になる見込みです。現状のままですと、すぐにでも生活保護の申請が必要だと考えられます。」
そう答えると、「ですよね」と小さな声でつぶやき、2人は目を伏せてしまいました。