今後起こりうる「3つのケース」についてお話しします

後日、母親と長女に連れられてやってきた長男は、終始落ち着かない状態でした。家族と話をするときは普通ですが、部外者である私(FP)と目を合わせようとしません。

「本日は、お母さまが『定年』『入院』『死亡』したときに、家計がどのような変化するのかシミュレーションした結果と、その対策についてお話しさせていただきます」

写真=iStock.com/Cameravit
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そう言って、母親の3つの希望(「70歳定年」「定年後旅行」「生活費を21万円→15万円に圧縮」)を踏まえて作成したキャッシュフロー表(図表2)を見せました。

働いている間は月6万円の積み立てができますが、定年後は毎年144万円または155万円の赤字となるため、定年4年目にして貯金は底をつくと伝えました。原因は2点。

(1)年金収入に対して家賃が高い
(2)手元の預貯金が十分でない

手元の預貯金が不足しているのは、約3年間の父のがん闘病生活が影響していました。父は保険にまったく入っていなかったので、医療費や関連支出の負担増(計約500万円)は貯金を取り崩すほかありませんでした。

そのことを図表2のキャッシュフロー表を使って説明をすると、長男は食い入るように数字を目で追いました。母親が90歳になるまで預貯金をもたせるには、81歳まで働かないといけないと伝え時、キャッシュフロー表をもつ長男の手にグッと力が入ったのがわかりました。何か感じるところがあったのでしょうか。

「お母さまに万一のことがあった場合は、お母さまのお給料はもちろん、お母さまの老齢年金や遺族年金は受給停止になります。預貯金が現状のままの状態でお亡くなりになった場合、1年以内に生活保護の行うことになるでしょう」

ポイントは「住まい」「備え」「仕組み化」

家計を見直して、生活費を6万円減らしたとしても、母が81歳まで働かなければ生活を維持していくのは難しい。そこで私は、「住まい」「備え」「仕組み化」をキーワードに改善案をまとめました。

<3つの改善案>
1.住み替えをする
2.医療保障と死亡保障を確保する
3. 貯める仕組みをつくる

「まず、住み替えについてご説明します。現在お住まいのエリアで、ふたり暮らしに最適な2DKまたは2LDKで、今より安い家賃で入居できるお部屋はないか調べてみました。すると、UR賃貸住宅で2DKの部屋が『家賃4万6700円+共益費3800円=5万500円』で借りられることがわかりました。現在のお部屋に比べて狭いですが、2分の1以下の家賃で利用できます。2カ月分の敷金を払えばOKで、礼金や仲介手数料などはかかりません。これにより、年間65万4000円支出が抑えられます」

そういってパソコンの画面でUR賃貸住宅のサイトを開き、物件情報をお見せしたところ、3人は食い入るように眺め、相談し始めた。しばらくして長女がこう答えました。

「ちょっと狭いですが、暮らせなくはなさそうです。バス停が近くて、施設への通勤も便もよさそうです。この後3人で見に行ってきます」

3人から笑みがこぼれました。