日本人には一般教養が足りない

では、クリエイティブ力を磨くのに、どうしてアートが最適なのでしょうか。

一番の理由は、アートがビジネスパーソンの「学びなおし」に適している教養だからです。

海外でも仕事をするようになって痛感するのは、「日本のビジネスパーソンには一般教養が足りない」ということ。厳しいようですが、これが現実です。

ヨーロッパで、VIPと呼ばれるような人たちや大企業のCEOと会食をすると、必ずといっていいほど、歴史や哲学、芸術や文化の話になります。歴史の話をしながら会食することや、哲学の話だけで1時間以上立ち話をするのは当たり前。相手が中国人だと、『史記』『漢書』『三国志』、さらには『明史』など3000年の歴史にまで話が入り組んでくるため、会話の内容がよりディープになります。こうした会話についていけないと、「日本人は教養がない」と思われてしまいます。

そうはいっても、いきなり歴史や哲学について、自分の見解を述べるのは難しい。しかも、時間がないなかで一から学びなおしをするのは至難の業です。

そこで、まずは文化、とくに芸術の分野に強くなるのがいいのではないか──これが私の提案です。

アートは、英語やコンピュータのプログラムと同様に、世界の共通言語といっても過言ではありません。つまりアートを学ぶことは、世界で通用するツールを手に入れるのと同じことなのです。

刺激的な出会いの宝庫である

いま、アパレル業界は斜陽産業で、閉鎖的な世界です。でも、アートに関わることで、新しいビジネスのアイデアが浮かんできたり、新たな可能性が開けてくる。私にとって、アートはビジネスを推し進める上での潤滑油、そして突破口になっています。

たとえば、アートを通じて、普通ならまず出会えないような人に会うことができます。

私は2016年から、生まれ故郷の岡山で、「岡山芸術交流(Okayama Art Summit)」という国際現代美術展に関わっています。2016年に第1回を開催し、2019が2回目となりますが、岡山市、岡山県、私が理事長を務める石川文化振興財団をはじめとした実行委員会が開催するこのイベントには、多くのアートファンやアート関係者が岡山まで足を運んでくれます。

じつは以前、イギリスの「テート」(Tate、4つの国立美術館の運営やコレクションの所蔵・管理などを行なう組織)のアートの有識者や支援者からなるグループから、岡山を訪問したいという連絡がありました。そのリストを見ると、大富豪や貴族の肩書をもつ人から、某グローバル企業の会長など、著名人の名前ばかり。

彼らとの会話はスケールが違います。驚きながらもその一方で、「自分はまだまだだな、もっと頑張ろう」と思いました。