「変えない」からこそ支持されてきた名店

欧米からもリスペクトされる日本の喫茶文化。それを象徴する店が「カフェ アンセーニュダングル」だ。店は東京都内の原宿、広尾、自由が丘にある。

店名はフランス語で「角の看板」の意味。最も古い原宿店の開業は75年、広尾店は79年、自由が丘店は85年で、昭和・平成を人気店として生き抜いた。

この店の特徴は、創業以来「店の哲学」を変えないこと。よく「時代とともに中身を変える」といわれるが、「変えない」からこそ支持されてきた。

創業者の林義国さんは、現在は自由が丘店のカウンターに立つ。「お客さんから見えるカウンターでの作業は『さらしの仕事』ですが、喫茶店なので決めすぎてもいけません」と林さん。

看板商品の「ブレンドコーヒー」は、ネル(布)ドリップを用い、深煎りで淹れる。濃厚で、苦味とコクのバランスがとれた味だ。常連客のなかには著名人や文化人も多い。

この店は、コーヒーカップもソーサーも「ロイヤルコペンハーゲン」や「ベルナルド」「リチャードジノリ」などの一流品を使う。これも店の哲学だ。

「自由が丘に来ると、必ず立ち寄るの」

「わざわざお越しいただいたお客さんですから、おもてなしの意味を込めています。自宅でも来客には、その家にある高級なカップでもてなすのと同じです」(林さん)

「自由が丘に来ると、最後はこの店に立ち寄るのよ。カウンターの分厚い一枚板が好きなの」

こう話すのは、都内在住の80代の女性。年齢を感じさせないスタイリッシュな服装と姿勢のよさも印象的だ。自宅を建て直した際、あえて木造住宅にこだわり、調べるうちに、木に対する興味が増したという。

同店のカウンターは8メートルに及ぶ一枚板。アフリカクルミだという。

「もともとは12メートルありましたが、店内のレイアウトの関係で、やむをえずカットしました」(林さん)

店には常に新鮮なバラも飾られる。都内のバラ専門店「ローズギャラリー」から、当日朝に摘んだばかりのバラが14本届けられる。週に1度のペースで花を取り換えるという。これも長年続ける「しつらえ」だ。