威迫的な要求をする父親にどう対応すればいいのか

結愛ちゃんの事件がなぜ起きたのか。防ぐすべはあったのではないか。厚生労働省が、虐待リスクの見極めや情報共有に不備があったとする検証結果を公表してからわずか3カ月後の2019年1月、今度は千葉県野田市で同じような事件が起きた。小学4年生の栗原心愛みあさん(当時10歳)が自宅で死亡し、その父親が虐待したとして逮捕されたのだ。

心愛さんは、亡くなる1年以上前、学校のいじめアンケートでSOSを発していた。

「お父さんにぼう力を受けています。夜中に起こされたり、起きているときにけられたりたたかれたりされています。先生、どうにかできませんか」

助けを求める心愛さんを児童相談所はいったん保護したが、約3カ月後に自宅に戻した。その直前に児相職員と向き合った父親は「父と娘を会わせない法的根拠はあるか」などと、心愛さんを戻すよう威迫的に要求したという。児相は自宅に戻した理由を「保護者の拒否感が強い中、学校できちんと見ていただこうという形になった」と説明した。

やはり、というべきか、児相の「他力本願」は通じなかった。自宅に戻ってから1年もたたないうちに亡くなった心愛さん。暴力を振るった疑いがあるとして逮捕された父親には、真冬の浴室で心愛さんに冷水のシャワーをかけた疑いも浮上した。

児童福祉司を1.6倍にする計画は「結果」につながるか

結愛ちゃんも、心愛さんも、一度は虐待を理由に保護された後、再び自宅で親と暮らした末に、その幼い命を奪われた。児相は、虐待が繰り返される可能性を把握しながら、2人の家庭に潜んでいた危険性を見極め、適切に対処することができなかった。

読売新聞社会部『孤絶 家族内事件』(中央公論新社)

繰り返される悲劇に、政府も何度目かの「抜本策」を打ち出した。2022年度までに、児童相談所で相談に応じたり必要な指導を行ったりする児童福祉司を約2000人増やし、現在の1.6倍にする計画を発表。専門性を高めるため、児童福祉司に任用する要件の厳格化を検討することを打ち出し、支援する職員の質量の充実を図るとした。さらに、児相が子どもを保護せずに在宅で指導しているすべての虐待事案について、子どもの安全を緊急点検した。

しかし、これがどれだけの「結果」につながるのかは未知数だ。

親や親族によって幼い命が奪われる悲劇の連鎖を、どうすれば断つことができるのか。子に手を上げ、傷つける可能性がある親に対し、児相はどう対応するべきなのか。「保護」の判断に抵抗する親に対する児相の権限は現状で十分なのか。警察や裁判所など他の機関ができること、地域社会や、それを構成する私たち一人ひとりがもっと関われることはないのか——。

これらの古くて新しい課題に対する答えを、行政も社会も、そろそろ見いださなければならない時期に来ている。

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