今も思い出しては自らを責めている

2018年夏、男性は前年に続いて、マスターズ陸上大会のトラックに姿を見せた。

スタンドにいる記者に視線を送り、目が合うと手を挙げた。号砲が鳴り、駆け出したが、前回より歩幅は小さくなり、顎もやや上がり気味だった。タイムは0.4秒落ちた。レースを終えて戻ってくると、今回も、「あんまりダメだったな」と照れ笑いを浮かべた。

事件後は自殺も考えた。今も思い出しては自らを責め、苦しむことの繰り返しだ。それでも、こうやって健康を保って生き抜き、息子の供養を続けなければならない。そう自分に言い聞かせているという。

子どもの障害や病気に悩んだ親が、子どもを手にかけてしまう殺人・心中事件は相次いでいる。読売新聞が2010年1月から2017年3月までに起きた計50件(未遂含む)を調査・分析したところ、加害者は65歳以上が7割を占め、子どもの「ひきこもり」や暴力にもかかわらず、長く周囲から支援を受けられなかった高齢の親が事件を起こしている傾向がわかった。

同居する親に負担がかかりすぎている

調査したのは、警察発表や裁判資料などで、親が子どものひきこもりや心身の障害、難病などに悩んでいたことが確認できた事件。被害者が18歳未満の事件は、児童虐待など動機や背景が異なるケースが多く、調査対象から除いた。

読売新聞社会部『孤絶 家族内事件』(中央公論新社)

50件の動機や背景(重複あり)を分析したところ、「親が亡くなった後などの子どもの将来を悲観」が約6割の28件に上った。「子どもからの暴力」も20件と目立った。ほかに「経済的な不安」(9件)、「介護疲れなどによる親のうつ状態」(6件)などもあり、福祉・医療面の支援不足が事件につながった可能性がある。

親が介護や世話をした期間が確認できた44件のうち、20年以上が22件を占めた。加害者となった親(53人)の事件当時の年齢は平均69歳。65歳以上の高齢者が37人と7割を占めた。被害者となった子ども(51人)は平均39歳だった。

事件が起きる背景には、障害などのある子どもと同居する親の過重な負担があると専門家は指摘している。親の高齢化が進む中、社会全体で負担軽減を図ることが求められている。

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