友人たちの夢に大金を渡す、謎の美女。そんな奇妙で奥深い映像を紡いだ森田芳光監督が、PRESIDENTに語り尽くした“本当のお金の使い方”―――。
人を豊かにするということ
突然故郷に戻ってきた美女が、夢や希望、欲しいものを語るかつての級友たちに、「私が出してあげる」と大金を渡す――森田芳光監督作品『わたし出すわ』の主役・摩耶を演じる小雪は、
「透明感があり、ミステリアスな雰囲気を持っている。どんなふうに生活しているのか想像できない、というか……小雪さんしか考えられなかった」
と森田が言うように、この不思議なストーリーに溶け込む孤独で謎めいた佇まいを見せている。
作品のテーマはずばり「お金」であり、「お金の使い方」である。個人も企業も“マネー観”の大枠を否応なしに変えざるをえない今の日本にいながら、森田はどういう思いでこの作品を撮ったのだろうか。
「昨年9月のリーマン・ショックよりずっと前、5、6年越しの作品なんです。たまたまこんな状況になったことで、かえって言いたいことをわかりやすく受け取ってもらえる」
昨今の経済破綻が起きたのは、間違ったものにお金を出しすぎたから、と言う森田。そもそも映画監督という稼業は、他人からお金を“出してもらう”側。“出してやる”側の理不尽さには何度も直面しているようだ。
「僕の最初の作品は、結局は自分でお金を出しているんですよ。出資を求めて生損保や飲料メーカーに行きましたけど、映画を撮ったことがないうちは映画監督とはいえない。話を持っていってもわかってもらえなかった。景気も悪くない頃だったけど、彼らは美術品を買ったり、ホールを建てるぐらいしかできなかったんでしょうね」
こうした社会通念は今も変わらない。
「今の映画界でお金が出る条件は、原作が売れた本と、視聴率が取れる俳優。この二つですよ。どんな監督がやるのかは、悔しいけど二の次なんです。やっぱり忸怩たるものがありますね。ある種の土地の担保みたいなものがないとダメだということ」
無論、それを否定はしないが、こういうやり方がルーティン化されると、本来多彩であってしかるべき映画が、同じようなものしか出てこなくなる。
「今回の映画は微力ながら、そういう状況に一石を投じています。かなりメッセージ性が強いですね」