「二兎を追う者は一兎をも得ず」ということわざがある。しかし現実には、二兎を追って二兎を得ることは可能だ。中学受験塾を主宰する矢野耕平氏は「小6まで習い事と受験勉強を両立させ、見事難関校に合格する子供には、ある共通点がある」という――。
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モーレツ習い事少年少女が中学受験で成功する理由

夏休みに入った。水泳、ピアノ、サッカー、野球……。そうした習い事に熱中する小学生も多いだろう。一方、中学受験を予定している小学生にとって夏休みは大事な時期だ。連日塾に通っている子供も多い。そのため中学受験生の保護者は、「習い事をどう整理するか」という悩みを抱えるようになる。

中学受験の進学塾に通いはじめる小4、小5になると、習い事をやめるという家庭は多い。しかし、せっかく時間をかけて身に付けた「技芸」の研さんをいったん停止することにはリスクがある。

ピアノを例に挙げると、1日ピアノの練習をしないと演奏レベルが3日~7日程度後退するといわれる。すなわち、中学受験のために半年間ピアノを弾かないとなると、中学受験終了後にはピアノの腕前が1年半~3年半前に戻ってしまうことを意味する。

中学受験と習い事は両立できないのだろうか。わたしの経営する中学受験専門塾の卒業生や保護者に取材した結果を基に考察していきたい。

たった5カ月の受験勉強で有名私大付属中に合格した野球少年

教え子の中に、小6の9月に中学受験塾に通い始め、たった5カ月間の勉強でG-MARCH付属校のひとつに合格した男子がいる。中学受験勉強スタートの時期は、小4から約3年間をかけて取り組む子たちが大半だ。小6の9月というと、4教科の基本の単元習得を終えて、志望校の過去問に取り組み始める時期だ。

この時期から塾に通っても、合格する可能性はかなり低い。彼はどうしてこんなに遅いタイミングで受験勉強を開始したのか。改めてその点をたずねてみると、こんな答えだった。

「ぼくはずっと少年野球チームに入っていたのですが、大会が一区切りして周囲を見ると多くの友だちが中学受験を目指していたんです。だったら、自分もやってみるかなあと思い、塾に通い始めました」

周囲は入試直前期で切羽詰まって受験勉強に打ち込んでいるタイミング。そんな中、なんとも「牧歌的」と形容したくなる動機ではあるが、担当した講師によると、その彼は楽しそうに受験勉強に取り組み、なおかつ、授業での集中力は抜群だったという。

実は地元で彼はちょっとした「有名人」だった。少年野球では投手として地元の選抜チームに抜擢され大活躍していた。高いレベルで野球に没頭してきたからこそ、彼は受験勉強においても同じ気持ちで取り組めたのだろう。また、彼は「入試本番は全く緊張しなかった」と笑う。

「野球の試合のほうがよっぽど緊張しますよ。打たれてしまったら自分一人の問題では片付かなくなりますし。それを考えると、(合否結果を自分ひとりが背負う)中学入試はラクでしたね」

なるほど、彼は少年野球を通じて、本番で存分に己の力を発揮できる「度胸」を涵養(かんよう)したのだ。